これからも前向きに 名大社会長ブログ

カテゴリ「本を読む 映画を観る」の記事一覧:

映画「AIR エア」

僕はバスケットボールの試合をほとんど見ない。
NBAのこともほとんど知らない。
それでもマイケルジョーダンの存在は知っている。
彼が世界を代表するスーパースターである事も知っている。
エアジョーダンの存在も・・・。

ただ、それだけ。
映画を通して知った事実は多い。

本作は実話を基に製作されたサクセスストーリー。
映画コラムニストであり企業人である僕はビジネスを舞台にした映画に惹かれる。
そこで繰り広げられる交渉や駆け引き、上司部下の葛藤がすこぶる面白い。

トップの判断として共感することも現場担当者として反発することもグイグイと引っ張られる。
世界トップの企業と名古屋のローカル企業。
全く違う世界とはいえ理解し得る場面は多い。
会社の業績に一喜一憂するのは世界共通なのかもね・・・。

舞台は1985年前後のNIKE。
大学生になった頃。
当時、NIKEは僕らの生活に馴染みはなかった。

一部の熱狂的なファンはいたと思うが、
流行っていたのはコンバースのハイカットであり、
アディダスのテニスシューズだった。
テニスはやらなくてもテニスシューズを履いていた。

未だに人気のスタンスミスは当時からあったが、
僕はステファン・エドバーグをカッコつけて履いていたんじゃないかな・・・。
そんな時代。

バブルを迎えようとする頃にこんなドラマがあったなんて・・・。
知らなかった。

映画のバックに流れるのも当時流行った洋楽。
タイトルもミュージシャンも出てこないが、耳馴染みのある曲。
映画を観ながらつい体が踊ってしまいそうな感覚も・・・。
ビジネスの現場と楽しい学生時代がオーバーラップする作品がつまらないわけがない。

いかにもアメリカ映画らしいNIKEを持ち上げるサクセスストーリーはぬぐい切れないが、
そこも含め上手くエンターテイメントに仕上げた演出には感動。
中年太りのマットデイモンもリアル感がありよかった。

企業理念の重要性も再認識できた。
一つの仕事の成果が企業のあり方さえ変えてしまう。

楽しみながらビジネスも学べる映画だった。

キネマ旬報95回全史 パート3

今回は1960年代をサクッと解説。
60年代に入ると馴染みのある映画監督も増えてくる。
僕が観たことのある作品もベストテンの中には毎年1~2本は含まれるようになった。

代表的な作品でいえば、
61年 用心棒(日本映画2位)
62年 椿三十郎(日本映画5位)、秋刀魚の味(日本映画8位)
63年 天国と地獄(日本映画2位)、アラビアのロレンス(外国映画1位)
64年 砂の女(日本映画1位)
65年 赤ひげ(日本映画1位)、サウンドオブミュージック(外国映画9位)
67年 日本のいちばん長い日(日本映画3位)、気狂いピエロ(外国映画5位)
68年 俺たちに明日はない(外国映画1位)、卒業(外国映画6位)
69年 少年(日本映画3位)、男はつらいよ(日本映画6位)、真夜中のカーボーイ(外国映画2位)
といったところ。

黒澤作品が多いが、結構、観たことある人も多いんじゃないかな。
ここ挙げたのはかなりのメジャー作品。
意外と日本映画だと上位の作品は一般的に認知度は低い。
今のキネマ旬報ベストテンでも上位はマイナーな映画が多いから、傾向は変わらないか・・・。

興行的にかなり厳しくなっていくのが60年代。
1958年の映画館の入場者が延べ11億2700万人に対し、
1963年には5億1200万人と5年で半分以下となった。
69年には遂に3億人を割り込んだ。

プロ野球チームを手放すのも、経営が厳しくなるのも当然。
テレビを敵対視するだけでも済まない。
今のようにドラマの映画化やテレビ局とのコラボなんて、考えもしない時代。
どんな世界でもピークは一瞬で過ぎてしまうわけね。

そんな中でヒット作を確認すると時代の傾向が理解できる。
興行収入ベストテンでは65年に網走番外地シリーズが3本、66年も同シリーズが3本ランクイン。
計6本は一切ベストテンには入っていない。
ヒットシリーズはどこまでも作ってしまうのは東映らしいのかもね。

ヒット作が偏る中で、監督も徐々に世代交代が進んだのもこの時期。
大島渚、篠田正浩、浦山桐郎など昭和生まれの活躍が目立ってきた。
ちなみに大島監督には一度、お会いしたことがあるし、篠田監督は岐阜出身。
少し身近に感じる(笑)。

アメリカ映画も大きく変わった時期のようだ。
ニューシネマと呼ばれる作品が増え、評価を得るようになった。
ハリウッドが描き続けた華麗で壮大な虚構から、現実に目を向ける作品が目立つ。
当時の社会背景も大きく影響しているのだろう。

年代を代表する作品を探っていくと時代性を反映している。
映画はその時代も教えてくれるわけね。
書き足りないことは多いが、これから更に深刻な70年代に入っていく。

続く・・・。

映画「ロストケア」

本作は社会派サスペンスとか、
社会派エンターテイメントと紹介されているが、
重厚な人間ドラマと捉えていいだろう。

ズシリと重くのしかかり、つくづくよくないことが頭をよぎる。
最近観た「茶飲友達」のその後の世界といえるし、
親のこと、自分のこと、家人のことも含め考えざるを得ない。
高齢化社会が抱える避けては通れない問題だが、
誰もが自分に降りかからないことを願う。

名大社でも介護施設のクライアントは多い。
人材確保には相当苦労されている。
ああいった現場を見れば、献身性だけでなくストレス耐性がないと体は持たない。

それを温かく冷静な態度で仕事を続けた松山ケンイチ演じる介護士・斯波の覚悟は相当なもの。
そして彼が放つ言葉。
犯罪者として扱うことに戸惑いを覚えるが、犯した罪を考えれ極刑にあたるのも当然。
しかし、そこに迷いが生じるのは映画を観た多くの人。

2つの正義があり、理論的正しさと感情的正しさがぶつかり合う。
感情的正しさが理論的正しさを上回ることはできないが、理論的正しさは大いに揺らぐ。
長澤まさみ演じる検事大友の表情が全て物語る。

先日書いた「Winny」で今年の主演男優賞は東出昌大で決まりと言ったが、それは撤回。
松山ケンイチかもしれない(笑)。
対峙する松山ケンイチと長澤まさみのドアップが頭から離れない。

今年は家族の闇を描く映画が多いと感じるのは僕だけだろうか。
また3ヶ月あまりだが、そんなことを痛烈に思う。

そして、本作のカギを握るのは坂井真紀と戸田菜穂。
かつて2人とも好きな可愛い女優だったが、すっかり母親役が似合う年齢になった。
ネタバレは避けるが、180度異なる2人の想いや態度がまたこちらの気持ちを揺り動かす。
どちらも否定することはできない。
このあたりは映画を観て確認して欲しい。

一時期、坂井真紀は静かだったが、最近、よく見かけるようになった。
いい感じの中年女性を演じられる。
ある人を思い起こしてしまうのは、僕だけだがそれも悪くはない(笑)。
きっとこれからいい母親役を演じていくのだろう。

かなり辛い作品だが、僕らは自分たちのためにも観る必要がある。
そんなことを感じた映画だった。

映画「オットーという男」

ブログを読んで観ようと思っても、上映する映画館は少ないんじゃないのかな。
本作は観るかどうか迷いながら時間が経過。
珍しくハナリー島の大統領がブログで絶賛していたので観ることにした。

すでに上映は終盤。
映画館では一日1回しか上映しない頃。
ある意味、貴重な機会。
見逃したら後で後悔しただろう。
観てよかった。
人は素直じゃなきゃいけないね。

本作はスウェーデン映画のリメイク。
シンプルなストーリーだが、それが人の心をくすぶるのかもしれない。
題材としては日本映画にも合うじゃないか。

いずれ日本でも映画化されるような気がする。
アメリカよりも先に映画化すべきだったんじゃないの。
そんなことを思ったり・・・。

公開終了しているケースも多いので、少しだけネタバレすると、
(といってもほぼ解説と同じ)
町の一番の嫌われ者が隣人との付き合いで、
人間らしさを取り戻していくハートウォーミングな人間ドラマ。

なにがいいって、主役オットー演じるトムハンクスが素晴らしい。
さすがの演技力。
もうそんな老人役かと調べてみたら、1956年生まれなので僕よりちょうど10歳上。

奥さんに先立たれ人取り残された旦那って、こんな存在になってしまうのか。
自分とオーバーラップさせると何となく気持ちは理解できる。
僕には子供がいるが、同じような寂しさが付きまとうのかもしれない。

日本に限らず海外でも近所付き合いはとても難しい。
ありがたくもあり面倒でもある。
しかし、ふとした付き合いからなくてはならない存在になるのも間違いではない。
それが嬉しいコミュニティ。

そのためにはいくら嫌われ者でも人として信用は得なきゃならない。
筋が通った生き方は最後の最後は理解してもらえる。
変な頑固オヤジにはなりたくないが、正しい頑固オヤジも悪くないなと思わせてくれた。

大統領は頬伝うほどの涙が出たと言っていたが、僕はそこまで涙は出なかった。
そんなに涙するなんて、人に明かせない何かがあるに違いない。

しかし、しんみりと感動したのも事実。
おススメの映画ですね。

売れない問題解決の公式

2ヶ月ほど前、RCの卓話で著者の理央周さんと数年ぶりにお会いした。
卓話もとても分かり易い内容でいい学びになった。
スライドもさすがのセンス。
僕もあんな感じで作れるといいけど・・・。

後日、ありがたいことに最近、出版された著書を送って頂いた。
マーケティング関連の書籍を以前はよく読んだが、すっかりご無沙汰状態。
たまには脳が退化しないためにも読んでおく必要がある。
こちらもいい機会を頂いた。

マーケティングや経営戦略は一通り学んだが、忘れていることも多い。
そして、時代と共に変化もしている。
原理原則は大きく変わらなくとも、
手法や環境が変われば取り組み方もそれに即した対応が必要。

本書では多くの事例を基に分かり易く解説している。
専門的な知識がなくても、すんなりと頭に入ってくる。
経営者や幹部メンバーは構造的に理解しておく必要はあるだろうね。
担当者や部門に任せるにしても、
最終的に組織をまとめる上で仕組は重要だし。

理央氏は大学で教鞭をとられたり、
首都圏でも活動されているが起業当時は名古屋が中心。
事例には僕が普段お世話になっている経営者の企業も取り上げられている。
全然知らない内容だったが、販路拡大において大きな成果を上げた。

身近なところで成功体験があると必要性はより感じる。
小さな気づきを顧客視点でどれだけ持てるかで自社の果たす役割も変わる。
分かっているようで分かっていないことは分析し検証しないと・・・。
基本に忠実に従うことはいつの時代も変わらない。

インサイトという言葉も当たり前に使われるようになった。
カスタマージャーニーもいずれ当たり前になっていくのかな。
僕自身が先端のマーケティングを実施するわけではないが、
どんな行動やコミュニケーションが必要かは常に意識しておかなきゃいけない。

改めてその重要性を認識することができた一冊。
ぜひ、読んでもらいたい。

ありがとうございました。

映画「有り、触れた、未来」

本作を観た人は少ないだろう。
そもそも上映する映画館も少ないし、上映期間も短い。
残念ながら日の目を浴びる機会は少ない。

そんな日本映画って、結構多い。
ヒット作を複数の映画館で長期間上映するのは興行的にも重要だと百も承知。
しかし、こういった小さな作品が行き届くことで、
作り手の新たな可能性も広がるはず。
そんな場も大切にしていきたい。

正直、僕も素通りしかけた。
たまたまのタイミングと高い評価が気になったので、観ることができた。
小まめなチェックは欠かしちゃいけないね。

本作は東日本大震災から10年後の宮城県が舞台。
震災で亡くした家族を中心に様々な人間関係が描かれる。
それぞれが過去を背負い、それに立ち向かい葛藤しながら生きている。

悲しみは消えることもあれば、増幅することもある。
その矛先は誰にも向けることはできない。
せつないし、悲しい。

周りはそれを見て無責任に「頑張ろう!」「立ち直ろう!」と言ってしまう。
傷口を広げるだけで何の解決にもならない。
ただ悪気もなく、そんな言葉を発してしまう。
僕だって同じようなことをいう可能性は高い。
つい、口走ってしまいそう。

相手のことを思えば思うほど、安易な言葉は使えない。
誰しも当事者になることはできない。

結局は自分で未来を創るわけだが、必ずしも明るい未来である必要ない。
「ありふれた未来」で大丈夫。
それを理解しうるのが周りの役割。

何気に豪華俳優陣が脇を固める。
その中で光るのが手塚理美。
なんと中学生のおばあさん役。
「ふぞろいの林檎たち」での少しカタい看護師役が好きで憧れの存在だったが、
いつの間にか、おばあちゃんになってしまった。
チャーミングなおばあちゃんだけど・・・。

あとボクサー役の松浦慎一郎もいい。
「ケイコ 目を澄ませて」もそうだが、彼はボクサー役しかできないのかな(笑)。

演出的には自主映画っぽい香り。
だが、エンディングで流れる地域ぐるみでの映画の関わりには大いに共感。
これも地方を活かす大切な活動だよね。

映画「シン・仮面ライダー」

「シン・ゴジラ」「シン・ウルトラマン」に続いて本作。
この3部作では一番楽しみにしていたかもしれない。
予告編は一年前から観ていた。

記憶は曖昧だが、仮面ライダーをリアルで観始めたのは2号じゃないだろうか。
本郷猛の1号は再放送しか見ていない。
一番夢中になったのは仮面ライダーV3。

その後、仮面ライダーXはそこそこで、
アマゾンでちょっと離れたんじゃないかな。
再びストロンガーで戻ったと記憶している。

同じような道を辿っている50代は多いはず。
僕ら世代より少し上の60歳前後は最もハマった世代かもしれない。
本作のテイストも明らかにその世代を狙っているように思える。

最新のCGを駆使すればもっとリアリスティックな映像になるが、そこは控え目。
飛び散る血も平凡な日々を過ごす中年層への刺激。
ヒロイン役の浜辺美波もイマドキの女優だが昭和を感じさせる。

庵野監督は前2作を通して、より世代的共感を生むツボを得たのかもしれない。
それが功を奏しているのかは不明。

映画レビューを読むとかなり評価は分かれる。
絶賛の声が上がる一方で酷評も多い。
勧善懲悪なヒーローものやよりスリリングな展開を望む者は
物足りなさを感じるのかもしれない。

確かにそんな見方もあるだろう。
否定することはできない。

しかし、仮面ライダーを演じるのは池松壮亮であり、柄本佑である。
一見、ミスマッチに思えるライダー役にこそ訴えかけるものがあるのではないか。
大丈夫か?と思わせながらも戦い続ける姿に勇気をもらったのではないか。

ポスターにさりげなく掲げているコピー。
「変わるモノ。変わらないモノ」
「そして、変えたくないモノ」
時代が変化していく中で僕らが守っていきたいこともあるんだ・・・。

これから本作を観る人は少し予習をした方がいい。
それはストーリーではない。
僕はネタバレはしない。
オーグとかプラーナとか聞き慣れない言葉や
チョイ役で登場する俳優陣は確認しておいた方がいいかも。

大森南朋も松坂桃李も後で分かった。
仲村トオルは未だに分からない。
そのあたりは知っておいた方が映画を楽しめるだろう。

往年のライダーファンには懐かしい名前も出てくる。
「シン・ウルトラマン」俳優の扱いも面白い。
楽しみ方はいろいろ。

オジサンは必見かもね。

キネマ旬報95回全史 パート2

当初、パート1は1924年から1959年まで書く予定だった。
書き進めるうちに予想以上のボリュームになったため、49年までに切り替えた。
意外と書くことがあった。

今回は1950年代の映画界を紹介したい。
50年代に入ると朝鮮戦争の影響もあるが景気も良くなってきた。
従って映画業界も活況になっていく。

この10年間は日本映画界にとってかなり恵まれ潤った時。
テレビもまだ普及していないので、娯楽の王様は映画。

1955年には1年間の映画館の入場者は延べ8億9400万人。
映画館も年々増加し5,182館に達したという。
終戦後から5倍になった。

ちなみに調べてみると、2022年の映画館数(シネコンが多いのでスクリーン数)は3,634。
映画館入場者数は1億5,252万人。
1955年の人口は約9,000万人。

この比較だけで、当時の映画の力がどれほど凄いのかが理解できる。
(書籍には書いていないっす)
1950年代半ばが映画界のピークだといっても過言ではない。

日本映画の製作も年間400本を超え、質・量ともに充実した時期。
僕が敬愛する黒澤明監督も「生きる」「七人の侍」「蜘蛛巣城」
「隠し砦の三悪人」と代表作を作っている。

日本映画史上最高傑作といわれる「七人の侍」は1954年のベストテンでは3位。
1位にはなっていない。
評価は後からついてくるのか。
その年の1位は木下恵介の「二十四の瞳」。
2位も木下監督だ。

そして、この50年代に圧倒的に評価が高かったのは今井正。
53年「にごりえ」、56年「真昼の暗黒」、57年「米」、
59年「キクとイサム」と1位を4回も獲得。
なんと57年は「純愛物語」が2位となりワンツーを独占。

この時代、世界的評価は黒澤明や小津安二郎の方が高い。
今井正は地味な存在。
僕も作品は観たことがないし、そもそも機会がない。
しかし、当時の日本映画ではダントツの映画監督といっていい。

外国映画に目を移すと全般的にアメリカ映画が不振。
年よって作品の出来は異なるが、59年はベストテンに1本しか選ばれていない。
1位の「十二人の怒れる男」のみであとはフランス映画やイタリア映画が中心。

2022年はベストテンのうち5本がアメリカ映画。
それが普通に感じるが、50年代は低迷していたようだ。
見方を変えればフランス映画やイタリア映画が今、不振なのか。
今でも耳にするフェデリコ・フェリーニやルネ・クレマンが躍動していた頃だし。

ようやく僕が昔観た映画が登場するのも50年代。
「第三の男」「風と共に去りぬ」「禁じられた遊び」「ライムライト」など。
52年の興行収入は「風と共に去りぬ」が1位だが、本作はベストテンには入っていない。

これも不思議な感覚。
不朽の名作に数えられる作品でも当時はさほど評価は高くなかった。
今も昔も同じなのは評価と興行収入は比例しないということ。

50年代ヒットした映画は大した評価は得ていない。
黒澤明くらいかな。
ヒットもし、上位にランクインするのは・・・。

ざっくりと1950年代をまとめてみた。
続く・・・。

映画「Winny」

日本では珍しい近年起きた事件の映画化。
もっともっとこの類の作品が作られるべきと思うのは僕だけだろうか。
日本の暗部や闇を描き、それを後世に残る作品にすることも映画界の役割。
そんなことを考える。
本作を制作したのが30代の松本優作監督であることも大きな価値。
その踏み込む力を称えたい。

本作はファイル共有ソフト「Winny」の開発で逮捕され、
著作権法違反ほう助の罪を被った金子勇氏の一連の裁判を描いている。

当時は2002年。
インターネットがぐんぐんと普及していた時期。
僕もネット事業の責任者で大した知識がないのに、サイトの企画や運用を任されていた。
日に日に進歩する環境についていくのがやっと。
そんな時に起きた事件なので、当時のことは覚えている。

危険なソフトを開発した技術者の犯罪という認識。
自身の知識不足もあるが、マスコミの報道に翻弄されていたのだろう。
本質や実態を知ることはなかった。

「人をナイフで刺した人は逮捕されるが、ナイフを作った人は逮捕されない。」
という本作の弁護士が吐くセリフはそのもの。
ソフトを開発した金子氏に何ら罪はない。
そもそもソフト開発の目的も不正コピーを作ることではなかった。
やはり無知は罪。
当時の自分を恥じた。

金子氏、弁護士、警察、検察官が取り巻く環境を見事に描き、すべてが正義。
しかし、観る者は客観的な視点で誰が正義で誰が悪かは明確になる。
果たして日本は安全な国だろうか。

僕の大好きな「日本で一番悪い奴ら」も警察の暗部を描いていたが本作も同様。
何らかの形で大きな組織が動く実態は日本の未来を潰してしまう可能性もある。
結果的に金子氏は無罪になったが、技術者として大切な時間を失くしたのは事実。
ひとりの天才を消してしまったのは、数字に表れないものの大きな損失。
知らない世界で同じようなことは起きている可能性も高いかもね。

東出昌大演じる金子勇氏が役のままだとすればかなり変わった人。
一般常識に欠け、自分がのめり込む世界にしか興味を持たない人がきっと大きな発明を生む。

抜群に東出昌大は上手かった。
まだ3月だが「とべない風船」と本作で2023年の主演男優賞は決まりだな。
誰か賭けますか?(笑)。

助演になる三浦貴大も脇を固める俳優陣もいい。
何より実話に真摯に向き合いながらも、スリリングに仕上げた作品が素晴らしい。

2023年の観ておくべき一本だと思う。

キネマ旬報95回全史 パート1

今年は映画を観てブログを書くだけでなく、映画の歴史を学ぶ年にしたい。
それが僕自身の研究テーマかな・・・。
一体、どこに向かおうとしているのか(笑)。

そのために購入した「キネマ旬報95回全史1924~2021」。
キネマ旬報がベストテンを発表した95年を記録した書籍。

なんと872ページもあり、この分厚さ。
まるで辞書。
持ち歩くのは無理なので、時間の許す限り自宅で読みながら映画史を探っていく。

調べてみるとキネマ旬報社は今年で創立100年。
映画だけを題材にここまで生き残ってきた出版社。
業界全体をみれば決して安泰ではないはず。
その中で毎年毎年同じことを続ける力は尊敬するばかり。

読者の一人として、存在価値を世に放つお手伝いができれば・・・。
そんなことを考えてしまう。
実際、壮大な想いはないが、自分なりに学びをアップしていきたい。

一度にまとめるのは到底無理。
何度かに分けて書いていく。
そのために今回はパート1。

初回はベストテンがスタートした1924年から1949年まで。
それ以降は50年代、60年代、70年代、80年代と10年刻みで紹介する予定。
当然、今も読んでる途中。
定期的にアップできるかは不明だが、
自分のために書いているので、特に問題はない。

1924年から1942年までは記録も残っていないのか、解説はなくベストテンの紹介のみ。
最初の2年は外国映画のみで日本映画のランキングはなし。
外国映画は芸術性と娯楽性に分けられ、それぞれベストテンが挙げられる。

いわゆる「バビロン」の時代で無声映画。
写真でも「バビロン」的な華やかさが伝わってくる。
ほとんど知らない作品で、あとはタイトルを知るのみ。
観たことがあるのはチャップリンの作品くらい。

日本映画がスタートした1926年には阿部豊、衣笠貞之助、溝口健二と通好みの監督がランクイン。
このあたりの作品にも興味はあるが、死ぬほど暇じゃない限り観る機会はない。
あくまでも優先順位として・・・。

1941年、1942年は日本映画のみで海外作品はなし。
戦争を煽る作品が目立つ。
日本中がそんな状況なわけね。

戦時中は一旦休み。
雑誌の発行もなかったのかな?
1946年に復活し、この年はベスト5のみ。
映画を楽しむ余裕がないことを窺うことができる。

1947年以降は徐々に活況になる様子が作品からも理解できる。
海外でも評価の高い小津安二郎や黒澤明、木下恵介監督あたりが精力的に活動。
外国映画もヒッチコックを始め名前を知る監督も・・・。
「大いなる幻影」は学生時代に観たが、忘れてしまったな。

こんな感じでダラダラと書いていくつもり。
続く・・・。