これからも前向きに 名大社会長ブログ

カテゴリ「本を読む 映画を観る」の記事一覧:

酒と作家と銀座

ただタイトルに惹かれて買った書籍。
街で飲み歩く日が無くなったので体が勝手に反応した。
(これからは違うけど・・・)
そんな読者も多いんじゃないかな。
いやいや、そんな読者はいません(笑)。

銀座で43年間、文壇バーを経営するママが書いたエッセイ。
たまにはこんな分野を読むのも普段飲まない酒を飲むようでいい。

文壇バーといっても要はクラブ。
そこに集まるお客さんが著名な作家なのでそんな呼び方が相応しい。
銀座の文壇バーで飲むことには憧れるので、銀座を制覇するT社長に連れてってもらいたい(笑)。

リリーフランキーがパーソナリティを務めるラジオ番組とは装いは違うだろうね。
僕はあれくらいの敷居で十分だけど・・・。

多少なりとも憧れがあるが、その分野が得意かといえばそうではない。
名古屋でいえば錦三丁目がそれにあたると思うが、もう1年ほど行っていない。
あれっ、4月に行ったかな・・・。
いや、先々週?
ただ行っていないに等しい。

社長になり付き合う方の幅が広がり、一時期は頻繁に錦のクラブにもお邪魔したが、
いつまで経っても慣れないのが正直なところ。
かなり見栄を張るし、反対にこちらが気を遣ってしまうので、
それなりに楽しんでも後で結構疲れたりする。
懐も痛むし・・・。
そんな嗜みも経営者として必要だろうが、むしろ静かなBARでゆったりと飲む方がいい。
隣に女性が座る必要はない。

しかし、本書を読む限り著名人は華やかな雰囲気の方がいいようだ。
ゴージャスな高級クラブではなく、落ち着きを保ち華やかさも残しながら。
それが本書に登場する文壇バー「ザボン」。
写真だけでは分かりにくいがそんな派手さはないし。

ここに来られるのが業界で認められた証にもなるんだろう。
錦にもそんな店があるような・・・。

本書には多くの作家の振る舞いを紹介している。
ママとの付き合いで了解を得てはいるだろうが、きわどい話も多い。
まあ、酔った勢いでOKを出したケースもあるだろう・・・。

破天荒な作家ならまだしも、半藤一利氏のような硬派な作家もここでは乱れる。
乱れるという表現は適切ではないが、柔軟な人間性を示す。
そんな寛げる場なんだろうね。

常連作家が本書で特別寄稿を贈るくらいだがら、
水口ママは本当に愛されているキャラ。
店を続ける苦労もさらりと書いているが、
銀座で40年以上この世界で生きるのは並大抵の努力ではないはず。
切った張ったで乗り越えた経験も多いと思う。

それだけでも尊敬に値する。
そう考えるとそんなお店に通うのも悪くはない。
僕もいずれ「よっ!」と一人で寄れる店も現れるのだろうか。
居酒屋やBARじゃなくてね。

映画「MINAMATA ミナマタ」

僕が学校で学んだのは小学校高学年か中学生だったか。
記憶は定かでないが、水俣病とイタイイタイ病と工業汚染が原因で集団発生した公害病だと・・・。
事件からまだ20年ほどの経過だが、遠い世界の事実という認識だった。
単なる知識不足なのか、それほど情報が届いていなかったのか。

残念ながらユージン・スミスという写真家も知らなかった。
無知は罪。
その分、映画は多くのことを教えてくれる。

事実をより過激にするきらいはあるが、学びを与えてくれる。
その点だけでも本作には感謝。
いい機会を作ってもらった。

同時に思った。
この作品は日本映画ではなくアメリカ映画だと。
やはりこの手の映画は国内で製作するのは難しいのだろうか。
その点、アメリカ映画は政治批判も社会問題も正面に向き合い堂々と作られる。
歴代大統領さえ叩き切る。

自由の国と短絡的にまとめるつもりはないが、この差が埋められることはなさそうだ。
あまり息苦しいことを語るつもりはない。
ふと、思ったことにすぎない。

僕はそうはいっても日本映画ファン。
しっかりと応援し続ける。
そのためにはあえて批判することも必要。

本作で描かれることを100%鵜呑みにするわけではない。
本当に?と思うシーンも多い。
工場の屋外通路での國村隼演じるチッソ社長とユージン・スミスの会話は事実なのかと・・・。
あっ、ユージン・スミスはジョニー・デップのことね。
事実だとすれば本来もっと断罪されるべきだろう。
株主総会の場面もね・・・。

しかし、そんな演出でより社会をえぐることも必要なのかも。
映画はエンターテインメントでありジャーナリズムではない。
ドキュメンタリーでもない。
当時の社長が生きていたら激怒する可能性も高い。
もしかしたらそんな点が作品の賛否になるのかもね。

本作はどこまでいってもジョニー・デップだが、さすが変幻自在の演技。
昨年観た「グッバイ、リチャード」とは180度異なる。
キムタクと比較する人もいたがそれは酷というもの。
「マスカレード・ナイト」はあれでいいんだよ。

本作は多くの方に観てもらいたいし、全編通してビシビシと伝わってきた。
しかし、若干の違和感があったのも事実。
あの風景や民家は当時の熊本だろうか?
海外から見た日本であるような気がしてならない。
そんなことを感じた。

なんだかこの秋は”正しさ”を問う映画が多いように思う。
次のコラムは「空白」だし・・・。
とりとめなく書いたブログだが、強く胸に刻まれたのも事実。
感動した作品。
やはり自分の中の正しさを求めていかないとね。

ソニー再生 変革を成し遂げた「異端のリーダーシップ」

随分とイメージが違った。
もっと理詰めで攻める固い人かと思っていた。
誰かといえば著者のソニー前社長の平井一夫氏。

大変失礼な言い方だが、大企業のトップとは思えない普通の人。
どちらかといえば僕に近い。
いや、いかん、それでは本当に失礼な物言いになってしまうが、読後の感想はそんなところ。

カリスマ経営者でも、本流を走ってきた人でも、強烈なリーダーシップを発揮する人でもない。
健全な危機意識を持ち、物事の優先順位を明確にし、
やるべきことをブレずに取り組んできた方。
大赤字に陥ってきた企業を任されたのだから相当なプレッシャーもあったと思うが、
それもあまり感じない。
自然体に粛々と改革を推進してきた。

著者の表現だけでは名門を復活させたダイナミックさはさほど感じない。
しかし、これは平井氏が自分の成功物語を遠慮がちに謙遜して書いているからだろう。
自分の手柄ではなく、周りの手柄だと・・・。
それも人柄の表れ?

きっと出井氏やストリンガー氏であれば、大袈裟に自分の実績をアピールしていたと思う。
いや、それも大変失礼な話か。
あくまでもイメージです。
作ったマスコミが悪いのです(笑)。

僕のブログだけでもソニー関連のネタは結構書いている。
代表的なのは「またか!ソニーショック」「切り捨てSONYを読む」
かなりネガティブな内容。

僕は営業時代、美濃加茂市にあったソニーイーエムシーエスに大変お世話になっていた。
20年前までは地域の代表的かつ憧れの企業。
そこが工場閉鎖となり、本体もリストラの嵐が吹き荒れた。
4~5年ほど前までは暗いニュースしか流れていなかった。

平井氏も就任当初は大きな赤字を抱え、
大胆なリストラを実行しないと会社を潰しかねない状況まで陥っていた。
そこからの立て直し。
壮絶な苦労はあったと思うし、恨まれることも多いはず。

主観的にと客観的にと会社を見るのは異なる。
外部は無責任に客観的な捉え方しかしない。
いくら主観的な正当性を語ったところで理解してもらえない。
そんなことを繰り返してきたはず。

平井氏はそんな状況の中で客観的に会社を分析しながら主観的に物事を進める。
それも熱くも冷たくもなく。
もちろん熱さは感じるが、そこにはドラマにありがちな熱血的なリーダーシップではない。
そんな持ち味だったからこそ、再生させることができたのではないだろうか。
ノスタルジーと決別し、メイン事業を売却するのも客観性に優れていたから。

やはりトップへの人事は変なしがらみはない方がいい。
そんな点も僕に近かったりして。
従業員16万人の会社と一緒にするな!
はい、すいませんでした・・・。

これだけ人材が揃う会社で本流にトップに相応しい人物はいなかったのか。
傍流の平井氏以外の人物はどうだったのだろうか。
これが不思議だし、最後まで分からなかった。

事実は小説より奇なり。
ちょっと例えはよくないか(笑)。
経済小説も面白いが、この類の方がより面白い。
体験に勝るものはない。

十分、楽しませてもらいました。

映画「由宇子の天秤」

観終わった後、「う~む」と唸ってしまった。
先日の「マスカレード・ナイト」と違い、かなり考えさせられた。
重い苦しさが体を覆った。

映画は「マスカレード・ナイト」のように娯楽性が高く楽しく終えられるのが理想。
一方で真逆の終わり方する映画もなくてはならない。
僕はどちらか選べと言われれば、後者を選んでしまうのかもしれない。
二者択一であれば「由宇子の天秤」を好きな作品で選ぶ。
自分ではまっとうな人間と思っているが、結構ひねくれているのかもしれない。

本作の問いは”正しさ”とは何か。
一般的に正義とか正しさには正解がある。
これが正しくて、これが間違っている。
子供でも分かる話。

それは上辺の解であって、実のところ”正しさ”なんて自分が勝手に思っていることに過ぎない。
立場や環境が変われば、その正しさは180度変わる。
それが現実であり、社会で生き続けるということ。
最終的には主観で判断するしかない。

本作はそれを観る者に突き刺してくる。
正義をかざすものが本当に正義なのか。
ただの偽善者じゃないのか。
立場を都合よく利用しているだけじゃないか。
そんなふうに思わせる。

毎日報道される世界的なニュースも目の前で起きる些細な出来事も、
大した差はなく自分勝手な正しさで動いていく。
悲しいかな、それに影響を受け、僕らはその視点で解を導き出す。

なんとも暗い話になってしまったが、映画はそれを主張しているように思える。
いやいや、なかなかの物語りじゃないですか・・・。

本作が世間でどれだけ注目されているかは分からない。
しかし、僕は何度となくミリオン座で予告編を観て、自分の中の必見映画となった。
間違いではなかった。

それは僕の中での正しさ。
もちろん瀧内公美という映画では輝く女優を見たいという思いもあった。
僕は彼女の屈託ない笑顔が好きだ。
但し、本作では作り笑顔くらいしか見られない。
過去の作品は大胆な絡みが話題となり、一昨年の「火口のふたり」では主演女優賞も獲得。
本作はそんなシーンも一切ない。

ドキュメンタリーディレクターとして正面からぶつかり、葛藤していくばかり。
それがまたいい。
身内にも関係者にも取材対象にもカメラやスマホで撮り続け真実を掴もうとする。
それが自分を苦しめることになっても・・・。

そして、映像は肝心な場面を映さない。
正面から表情を押さえるべきシーンも側からの撮影。
それがリアルさを醸し出したり。
ラストシーンは驚くね。

由宇子(瀧内公美)の父親は光石研。
これってどこかでと思ったが、「彼女の人生は間違いじゃない」でも父と娘を演じていた。

これは偶然?
これも天秤にかけてるの?
なんては思わないが(笑)、よく出来ている。

毎年、日本映画は秋に優秀作が上映される。
それは”正しい”ようだ。
自分の中の正しさだけだけど。

ドラマ「しんがり~山一證券 最後の聖戦~」

先日、「アキラとあきら」を観て、すっかりWOWWOW硬派ドラマにハマってしまった。
その第2弾がこれ。
ずっと前から気になっていたし、原作も読みたいと思っていた。

なかなかキッカケが掴めずここまできたが、レコメンドで表示され、一気に観てしまった。
NHKであればこんな社会派ドラマは制作するだろうが、基本的には仕事好きしか観ないようなドラマ。
それにまんまと乗っかって感動してしまう自分は仕事人間ということか。

ご存知のように本作は破綻した山一證券の闇をえぐった社会派ドラマ。
社名はそのままだが登場人物は架空。
フィクションではあるが実話を基に制作されている。
多少、大袈裟な演出はあるかもしれないが、
実際にこんな隠ぺいが企業内で繰り返されていた事実を知ると絶望的になる。

しかし、そこには悪があるわけではなく、あくまでも自分たちの正義が成り立つから質が悪い。
僕が当時の会長、社長だったらどう行動するだろうか。
同じような行動をするだろうか。

冷静に客観的な立場であればNOといえるが、いざ、当事者となると貫けられるだろうか。
景気が回復し株価が上昇すればすべてがうやむやになりなんら問題は起きない。
そんな認識は当然浮かび上がる。

時代のせいだと・・・。
そんなことを言ってしまえば全て時代のせいにすればいい。
今、状況が良くないのはコロナのせい。
それで許されるのであればどれだけ楽なことか。

コロナでもバブル崩壊でもリーマンショックでも責任は自分で取るしかない。
だが、一度、美味しい思いをしてしまうと抜け出せなくなるんだろうね。
妙なエリート意識も邪魔するだろうし・・・。

ドラマのテーマはそこではないが、この6話を一気に観ながらそんなことを感じた。
江口洋介扮する梶井本部長以下、業務監理本部のメンバーはすこぶるカッコいい。
実際は周りに翻弄されながら、迷ったり嘆いたりするが、
最後まで諦めず貫く姿には素直に感動する。

仕事人の誇りを感じる。
事実も違いはないだろう。
こうした人がいる限り、本来の意味の正義は守られる。
それが正直な姿。
僕がもし業務監理本部に所属をしていたなら同じ行動をしたと思う。

だが、それは1997年当時だからできたのもかもしれない。
これも要らぬ詮索だが、今のこの環境下で同じ行動が許されるだろうか。
深夜も休日も関係なく働き続ける。

その正義は”働き方改革”の名のもとにブラックにすり替わり、
バッシングの要因になってしまうのではと勘ぐってしまう。
より効率的な業務は可能かと思うが、世間の反発も起きないわけではない。
これも余計なことだが、そんなことを感じてしまったり。

90年代だから描くことができたドラマ。
梶井本部長もその時代に熱い人だったから、結果としてヒーローにもなれたのかと・・・。
ただこの姿勢は失ってはいけない。
時代が変われども、貫く姿勢は変わらない。

10年後、その時の20代がこのドラマに感動するかどうかは不明だが、
個人的にはいつまでも感動してもらいたいと思う。
最後まで自らを信じて正義を貫いていきたいね。
誤った正義じゃなくて・・・。

映画「マスカレード・ナイト」

前作を観たのが2年半前。
当時のブログで素直に楽しめる娯楽作品と書いている。
今回もそれは同様。
何も考えることなく、考えながら観ることができる。

固くも柔らかくもなく、社会的メッセージがあるわけでもない。
時にはそんな楽しみ方ができる映画は必要。
僕の上映時の並びの席には家族連れがいたし。
それも大人の家族。
そんなふうに観れる映画は少ないと思う。

なにかと豪華キャストが話題になるが、作品とはほぼ関係のない出演者も多い。
明石家さんまや田中みな実なんてストーリーとの結びつきはゼロだが、これもサービス精神。
ちょっとした話題にもなる。
本作はそれでOK。

それに本作には僕の好きな女優さんも多数出演している。
主演の長澤まさみは当然のこと、麻生久美子、中村アン、他にも魅力的な女優さんが多い。
中村アンは伏線があるとはいえ、映画自体には関係ない。
でも僕はあのセクシーな背中にクラクラで、それだけで映画に満足。
最初の10分で打ちのめされる観客はそうはいない(笑)。

本作はホテル・コルテシア東京の大晦日を描く。
基本的には一日の出来事。
それもホテルの中の密室劇。

僕らは登場人物に翻弄されながら緊張状態で映画の中に入っていくが、
この状況を作り出すのは相当難しいはず。
決まった箱だけの展開は制限も多く演出の限界もある。

しかし、そこを逆手に取っているように思える。
ホテルの表側と裏側、フロントと客室、同じ服装のホテルマンと警察。
互いの正義をぶつけ合い、入り混じる関係性が展開を拒み加速化させる。
何をいってるか分かんないよね(笑)。

僕は最後まで分からなかったが、最初から犯人が分かった観客はいるのだろうか?
途中でもいいけど。
騙されたわけではないが、あんな結末とはね・・・。
あの豹変さもステキだけど。

まあ、これも観てのお楽しみですね。
果たしてこのシリーズは続くのか?
それを予感させる分かり方だし。

続くとしたら長澤まさみは大変。
「コンフィデンシャルマンJP」もあるし。
彼女は歳を取れないね。
あの美しさをいつまでも保ってもらいたいし。

数年後の次回作を期待しながら。

映画「浜の朝日の嘘つきどもと」

映画を愛する人が喜びそうなストーリー。
嬉しくなったり、悲しくなったり・・・。
今年はなぜか映画を題材にした作品が多いように思う。

僕が観ただけでも
「のさりの島」「サマーフィルムにのって」「キネマの神様」
と最近は特に多い。

何か裏があるのだろうか?
僕を意識した映画製作をしているのだろうか?
勘ぐってしまうが、たまたまなのかもしれない。

本作は閉館になりかけの歴史ある映画館を救う話。
ありがちといえばありがちだが、
その佇まいというか、醸し出す映画館の匂いがすこぶるいい。

それは実在する映画館朝日座をそのまま使用しているのが理由かもしれない。
セットでは成し得ない”らしさ”を出すことで人の郷愁を誘う。
今、もぎりをやっている映画館なんてあるのだろうか。

35年前の学生時代を思い出してしまった。
僕は大学の4年間、名古屋駅の映画館でバイトをしていた。
今はミッドランドスクエアシネマと呼ばれている映画館。
当時、売り場でチケットを買い、入り口でチケットを半分切り取り半分をお客さんに渡す。
基本は今も一緒か・・・。

ただそれを1館1館で賄っている。
上映が始める前は忙しいが、映画が始まれば何もやることはなく、
(昔はほとんど自由席で、途中入場するお客さんもいたし)
ボーっと座っているだけ。
時給は恐ろしく安かったが、仕事は楽チンだった。

本作でそんなどうでもいいことを思いだした。
何しろ35年前の香りがしたから。
登場する映画館は地方の単館なので、そうはいっても名古屋駅のバイト先とは違う。
大須にあったピンク映画専門の映画館に近い。

しかし、ここで描かれているのはそんな過去の話ではない。
東日本大震災を乗り越え、コロナ禍にある現在進行形の福島県南相馬。
高畑充希演じる茂木莉子が恩師の希望を叶えるために、
あの手この手で映画館の存続に奮闘する。
イマドキっぽくクラファンを使ったり・・・。

ありがちな展開で斬新でもないが、どんどん映画に吸い込まれるし、愛おしく感じる。
カメラは莉子と支配人の2人を正面からずっと捉えている。
これがタナダユキ監督の特徴か。

恩師役の高校教師大久保佳代子との2ショットの長回しが多い。
それが自然の流れで日常に思えてくる。

あばずれ教師の大久保佳代子がはまり役でいい味を出している。
自身の代表作になるんじゃないか。
最後のセリフは想像できたけど。
ふわりとした映像と演出、思わず吹き出すシーンも多く娯楽性は高い。

しかし、その裏にあるメッセージは人間の本質を突く。
それを軽々しく口にする莉子。
そこに真のリアルがあるのかもしれない。
家族の絆も自然災害であっという間に崩れ去るのかと。
これから大切にしていかなきゃならないことも教えてくれる。

数年前まで全然かわいいと思わなかった高畑充希の魅力が溢れる。
これで好きになった。
彼女の持ち味が上手く引き出されている。

終わり方も含め好きな作品。
人をおちょくったタイトルもいい。
映画を観て初めて理解できると思うけど。

ドラマ「アキラとあきら」

名古屋ファミリービジネス研究会でご一緒する尊敬すべき先輩経営者から勧められたドラマ。
Amazonプライムで第9話まで一気に観てしまった。
いやあ~、面白い。

先輩経営者が息子に観させた理由も理解できたし、同族経営に関わる者は観ておくべき作品。
池井戸潤作品は読んでいる方だが、原作は全く触れたことがない。
例によって舞台はメガバンクだが、
(当時は都市銀行ね)
そこに絡む人間模様が池井戸作品らしい。

2017年にWOWWOWで放映されドラマなので、ネタバレも構わないだろう。
映画コラムニストの仕事でもないし。

タイトル通り主役は二人のアキラ。
なぜカタカナとひらがなかは不明だが、
境遇の違う銀行の同期の彬(向井理)と瑛(斎藤工)が互いの背景を絡ませ物語は進む。

まずこの二人がいい。
向井理はこれまで育ちのいい優男のイメージしかなかったが、それを残しつつも見事に後継者を演じる。
大手海運会社の三代目だが、部下を叱責するシーン、先代を想い涙するシーンは印象深い。
一方、斎藤工は「孤狼の血LEVEL2」のヤクザだったり、インディードのCMであったり、
なんでも来いという感じだが、実直な銀行マンを演じきっている。

二人とも隙がない。
それはドラマがそうさせているせいもある。

池井戸作品のドラマといえば「半沢直樹」「下町ロケット」「陸王」が頭に浮かぶ。
どれも面白いドラマだったが地上波との違いなのか、こちらは硬派。
半沢直樹に見られるような大袈裟な演技や流行語になりそうなセリフなどエンターテイメント性は皆無。

楽しめるのは地上波ドラマだが、胸に突き刺さるのはむしろこちら。
より企業社会を描いている。
倒産、M&A、粉飾決算、事業承継、兄弟の葛藤、確執など、
実際に起こり得る様々な問題に正面から向き合っていく。

このドラマだけで同族企業の強みも弱みも学べる。
苦労も喜びも・・・。

一般的に同族企業は長男が会社を継ぐケースは多い。
親族外承継が増えているとはいえ、
●●家の長男だから会社を継ぐのは当たり前、そんな見方も多い。

決して間違っていないと思う。
ドラマではそれを宿命と呼んでいるが、生まれた瞬間から運命づけられることも多い。
それに対しての反発や受容は当事者しか理解しえない。

また、時代考証も素晴らしい。
90年代初めバブル世代の僕らが着ていたスーツはドラマと同じ。
現代に照らし合わせるとファッションの違和感があるが、当時はあんな感じだった。
昔はあれがカッコよかったんだよね(笑)。

このドラマを観て、今後、WOWWOW系のドラマにハマっていきそうな嫌な予感。
面白そうな社会派ドラマが並んでいる。
次は「しんがり」か・・・。
困った・・・。

ただこんな時間も大切にはしたい。
おススメしてくれたI社長、ありがとうございました。

映画「アナザーラウンド」

呑気にインスタで「BARレモンハートと余市」の写真をアップし喜んでいたら、
ミセス日本グランプリ受賞の姐さんからお叱りに近いコメントが入った。

「そんなことやってないで、この映画を明日にでも観に行きなさい!」

全くのノーマーク。
言われなければ観ることはなかった。

鑑賞後に姐さんのお叱りの理由は読み取れた。
僕が登場人物に被る要素があり、まさに観るべき映画だと・・・。

それは主演のマッツ・ミケルセンに似ているわけではない。
彼は1965年生まれの同世代だが、デンマークを代表する人気実力派俳優。
とても二枚目である。

当然、そこではない。
映画を観れば120%納得してもらえるが、ネタバレしない程度に紹介しておこう。
主役を含め登場人物は高校教師。
生徒からの支持もなく冴えない日を過ごしている。

そんな時に、
「血中アルコール濃度を一定に保つと仕事の効率が良くなり想像力がみなぎる」
という哲学者の理論を知り、証明するために授業で実験することに。
その結果、授業は格段に盛り上がり生徒との関係性も良くなっていく。

その血中アルコール濃度は0.05%が適正らしいが、徐々に増えていき、やがて・・・。
なるほど、そういうことか。

僕も普段はごくごくつまらない人間。
それがアルコールが入ると想像力も豊かになりコミュニケーションもスムーズで能力はグーンと伸びる。
それを知っていたミセス日本グランプリの姐さんは「これ、アンタのことだよ」と教えてくれたのだ。
ここ、結構、大事ね(笑)。

一定量のアルコールならいいのだが、エスカレートしていくとただの愚か者になってしまう。
それも同じ。
まさに映画の中の連中に近い。

いや、そこまでは酷くないぞ。
僕より愚かでろくでもないヤツは、ここにもあそこにもいるじゃないか。
まあ、どんぐりの背比べだけど。

それでも誰も憎めないんだよね。
むしろ愛おしく感じちゃうんだよね。
それは僕が近い人物だからではなく、お酒を飲めない人も同じように感じるはず。

随分と肯定的に捉えているが、実際そう。
本作は第78回ゴールデングローブ賞にも、第93回アカデミー賞にもノミネートされている。
社会派映画として国際的な評価も高い。
ジャンルは間違っているかもしれないが(笑)。

本作はデンマーク作品。
言葉も文字もさっぱり分からないが、この国では16歳から飲酒が許される。
それだけで感動。
最近はヨーロッパ映画を観る機会も増え、
デンマーク映画も今年2本目(ある人質 生還までの398日)
知らない国の文化を味わえるのも映画のいいところ。

そして、万国共通なのはお酒がみんなを幸せにしてくれる。
お酒がみんなを不幸にすることもあるけど。

僕の周りの酒飲み連中は自分を振り返るつもりで観てもらいたい。
姐さん、ありがとうございました。

ほとんど評論になっていないな(汗)。

映画「孤狼の血 LEVEL2」

やっぱり復習しておきべきだった。
そうすればもっと関係性が理解できたかもしれない。
前作を観たのが3年前。
その時のブログがこちら

このあたりから白石監督にどっぷりハマっていった。
続編となる本作は完全に前作からの流れで偶然にも同じ3年後。
立場や環境の変化は3年の月日で大きく人を変える。
少しは可愛げがあった松坂桃李は3年も経つと風貌も性格もすっかり変わってしまった。

変わったように見せている。
権力がそうさせたのか、浅はかな正義感がそうさせたのか、分からないがポスターの通り。
5月に観た「いのちの停車場」は別人だね(笑)。

しかし、別人の代表格は鈴木亮平。
冒頭の西郷どんっぽい笑顔はまやかし。
同じ笑顔でもこれだけ恐ろしくなるものか。
映画を観た人なら誰もが納得するであろうその異常さ。

ホラー映画より怖いなんてこれはホラー作品か?
そもそもあんな奴を刑務所から出しちゃいけないでしょ。
その時点で警察は間違っている。

いや、これも計画通りなのか?
全て仕組まれた作戦か?
その陥れるやり方を知るとわざと出所させたとさえ思わせてしまう。

それだけ闇の世界は恐ろしい。
ここには少しの人を信用する人と多くの人を信用しない人が存在する。
どちらが強いかといえば人を信用しない人。
それは多数派でなく少数派に変わったとしても同じ。

信用する人が負ける。
その悔しい世界が厳しい世を生き抜くことために必要なこと。
先輩だろうが上役だろうが関係ない。

「ドライブ・マイ・カー」は感情を押し殺し関係性を作り上げたが、
本作は感情を前面に押し出し関係性を破壊する。
そもそも関係性なんて必要ない。
破壊の先に平和が訪れる気もするが、それもない。
破壊を繰り返すだけ。

全てを放棄し、田舎でのんびり暮らしても平和が訪れるとは限らない。
自ら破壊を求めてしまうのかな。
そんなことを感じた映画だった。
そんな表現をすると作品の期待値が下がるかもしれないがそうではない。

僕は本作の公開を心待ちにしていた。
今年で一番楽しみにしていた作品といっても間違いではない。
その期待を裏切らなかった。

すこぶる面白い。
その異常さに恐怖を覚えるが面白い。
さすが、白石監督。
制約の多い環境の中でもやりたいことがやれたのだろう。

入場者にプレゼントされたトレーディングカード。
いったい誰がこんなものを欲しがるんだ。

はい、大切にします。
特に02は。
13の人もいい味だけどね(笑)。