前回の「職業としてのシネマ」はバイヤー、宣伝側の話だったが、
本書は更にスケールが大きく映画会社の経営。
540ページのボリュームで1897年から1971年までの映画界を描く。
以前紹介した「キネマ旬報95回全史」はあくまで作品の評価が基準だったが、
こちらは映画会社の経営そのもの。
実に生々しい。
休日の空いた時間に読み続け、最近、ようやく読み終えた。
(さすがに分厚く持ち歩けない・・・)
この世界は面白い。
そして、恐ろしい。
闇も深い。
しかし、映画の魔力が多くの人を引き寄せ、迷い込ませ、
表面的には美しく、裏側ではドロドロとした世界。
70年以上の業界を露わにしているが、簡単に言ってしまえば博打だ。
昨日良くても明日がいいとは限らない。
栄枯盛衰という言葉が相応しいかわからないが、
時代の頂点を極めたかと思えば、一気に奈落の底に落とされる。
自分の力ではどうにもならない。
外部環境の影響もあるが、ヒットすべき作品がヒットせず、
それで経営不振になることもしばしば。
経営者の嗅覚が大衆を理解できるとも限らない。
本書は基本的に松竹、東宝、大映、東映、日活の5社を歴史を追いかける。
松竹が繁栄し低迷する時期もあるが、時代の寵児的な大映が自己破産してしまう。
何事もなく順調そうな東宝や東映も経営的にはゴタゴタが付きまとう。
そのあたりが無責任に面白く刺激的だが、
映画界はどこまでいっても水商売から離脱できない。
ある意味、本筋とは異なる面で足の引っ張り合いが行われる。
社長は自分の会社にすることに必死。
それにより組織が崩壊し、能力ある社員やスタッフが退社することも多い。
長い歴史なので本書をまとめるのは難しいが、それを簡単にまとめてしまう箇所も。
ファミリービジネスの成功と失敗ともいえる。
東映のジュニアは父をを喪い、社長になろうと思えばなれたが、岡田茂に譲った。
日活のジュニアは組合と共にロマンポルノへの方向を決めた。
大映のジュニアは全員解雇・制作中止・破産の道を選んだ。
東宝のジュニアは製作部門の分離に成功し、危機を乗り越えていく。
松竹のジュニアは社長に就任したばかりである。
これが1970年初めの話。
こんなにファミリー色が濃いとは思わなかったが、そこも含め映画界の歴史は興味深い。
当時はファミリービジネスが誤った方向へ向かいやすかった時期かもしれない。
僕がサポートしていたら倒産や解体はなく、上手くいったかもね(笑)。
いずれにしても自己の欲望が繁栄と衰退をもたらせた。
それが娯楽の中心である映画界で行われていたとは・・・。
これも時代の流れなんだろうね。
1960年代後半に映画界はテレビにやられた。
2020年代、テレビはネットにやられつつある。
すでにやられているのかもしれない。
40年後、ネットは映画にやられていたりして・・・。
それはないと思うが時代は変わる。
その中で映画はどう価値を生んでいくか。
単に娯楽の代表では誰も支持しない。
映画史の変遷を学び、今後を占う。
そんなことはできないと思うが、
映画界を想う僕としては過去の経営を今に生かしてほしい。
自己保身に走るのではなく、常に未来に向かって走ってほしい。
社長たちの映画史を読みながら、そんなことを考えてしまった。