本作の予告編は何度も見た。
また、大泉洋が出演するTV番組もあきらかに映画の宣伝になっていた。
完全に「お涙ちょうだい」の映画。
毛嫌いするわけではないが、
人の死で泣かせる作品はあえて見る必要がないと決めていた。
しかし、である。
本作の舞台は愛知県。
それも実話がベース。
あまり映画を観ない愛知県の知り合いも鑑賞。
しかも絶賛の声が圧倒的。
モデルとなった主人公は「東海メディカルプロダクツ」の筒井会長。
愛知県では敬意を払うべき知られた企業。
なんとなく背中を押された感じで観ることに。
想像していた展開であるのは間違いない。
それを冷めた視線で観ていたわけではない。
グイグイと引っ張られ、気づいた時には僕も多くの人と同じく感動に包まれていた。
大泉洋扮する坪井社長。
諦めずに邁進するその姿は父親としても、経営者としても、
一人の人間としても尊敬。
とてもじゃないがマネはできない。
万が一、自分の子供が同じ状況だった場合、自分はどこまでできるだろうか。
呆然と立ち尽くすしかないのではないか。
すべて投げ打ってでも守るべき存在を守ることができるか。
自分と重ね合わせる必要はないが、きっと情けなく映るだろう。
一人が諦めなければ、周りも感化され、共感者や同志が増える。
やがて大きな力になっていく。
キッカケは個人的なことに過ぎないが、与える影響力は大きい。
感動の人間ドラマであるが、人としての姿勢を教えてもらった。
大泉洋さん、なかなか、やるじゃないか。
ドラマとしては多くの方が語る感想とほぼ同じ。
敢えていうこともない。
それ以外に感心したのは時代考証。
1970年代から現在までを描いているが、
名古屋駅の風景を上手く映し出していたし、
当時の自動車や新幹線の煙草を吸う車内もよかった。
エンドールの撮影協力には経営者仲間の名古屋クラウンホテルの名前も出ていた。
それだけで身近に感じてしまった。
作り手の策にまんまと乗った身ではあるが、たまにはそんな映画を観るもいい。
もっと頑張らなきゃね。
僕も・・・。
伏見に戻ってきました。
やはりホームタウンは落ち着きますね。
会社周辺のお店はほぼ行き尽くした感があります。
新しくオープンしたお店以外に行っていないお店はないはず…。
と思いながらもまだ存在していました。
それも会社の目と鼻の先に。
会社から南に向かった徒歩30秒にある「喫茶ルゥ」さんです。
昭和を感じさせる喫茶店。
移転当初から気にはなっていましたが、ランチタイムにお邪魔する機会がありませんでした。
珍しく今回は14時近くの遅いランチ。
本日のお弁当は「ミニミンチカツとエビ串ダンゴ、おでん、スパゲティサラダ」と書かれています。
なんとも言えない組み合わせ。
「よしっ!」と頷きながらお店に入りました。
本日のお弁当を注文する気満々でオーダーを待ちます。
「いらっしゃいませ~。すみません、お弁当と焼肉定食は売切れなんです。」
昭和の喫茶店が似合う女性がお水と一緒に伝えてくれました。
残念な気持ちを抱きながら、メニューを眺めます。
正しい喫茶店らしさが伝わってきます。
かなり豊富なメニュー。
定食からピラフ、カレー、スパゲティ、サンドイッチ、ラーメンまでずらりと並びます。
最近、この類のお店は少ないように感じます。
懐かしさを感じながら、それを思わせる注文をしました。
焼きそば定食 800円
よくある喫茶店のメニュー。
焼きそばにはお肉もキャベツも竹輪も入っています。
紅ショウガと刻みのりがいい演出をしています。
ご飯が進む焼きそばです。
時にはこんなランチも必要なんでしょう。
こちらは抜群に美味しいというわけではないですが、
すべてのメニューが一定のクオリティを維持していると思われます。
他のお客さんサンドイッチやスパゲティなど全く異なるオーダーをしていました。
食後のアイスコーヒー 200円
この落花生の存在も正しい喫茶店の姿です。
ピークを過ぎた時間はゆっくりできます。
お気に入りの本を持参して、まったりと時間を過ごすのもいいかもしれません。
雑誌や新聞も置いてありますし・・・。
ごちそうさまでした。
まだまだ伏見界隈で知らないお店はあるようですね。
てっきり岡本喜八監督の自伝と思っていた。
確かにその要素は強い。
しかし、岡本喜八の映画監督としての足跡と捉えてはいない。
その人生観を捉えた書籍。
すでに亡くなって20年近い。
映画ファンでなければその存在も知られていない。
圧倒的なファンはいるだろうが、そんなファンも相当な年齢。
今、この時期に発行された意味はなんだろう。
危うい方向に進みつつある日本へのメッセージだろうか。
僕が観た岡本作品は39本中3本しかない。
「日本のいちばん長い日」「ジャズ大名」「大誘拐」の3本。
岡本作品を語るレベルにはない。
言い訳がましくいえば、いつか観ようとずっと思っている。
ということはいつまでも観ないのか・・・。
困ったもんだ。
僕の中では豪快で鬼才というイメージだが、本書を読むとそのイメージは大きく変わる。
もちろん世間が抱く豪快さはある。
しかし、それは敢えて演出した面も多い。
実際は繊細で自身と葛藤しながらの人生。
戦争体験が作品にも色濃く残っている。
脚本や演出にも反映され、戦中派にとってはかけがえのない存在。
僕はそんな視点は1ミリも持っていなかった。
たった3本しか観ていない作品にも戦争で亡くなった仲間への想いが盛り込まれている。
「大誘拐」はメチャ面白かったが、もうほとんど忘れているし・・・。
黒澤明監督や市川崑監督の陰に隠れ、目立つ存在ではなかったが自分の方向性は貫いていた。
そのあたりが一部のファンに圧倒的な支持を受ける理由だろう。
庵野秀明監督が一番好きなのは岡本監督と本書でもインタビューが掲載されている。
そのリスペクトが「シン・ゴジラ」にも反映。
「日本のいちばん長い日」を連想するシーンや岡本監督自身の写真も使われているという。
全然知らなかった。
シン・シリーズでは「シン・ゴジラ」が一番面白かったしね。
今の監督は当然ながら戦争体験はない。
戦中派と呼ばれる監督は存在しない。
今後も戦争映画は作られるだろうが、その視点は現代から見る視点だ。
間もなく戦後80年を迎える。
戦争を知らない僕らは戦争を知らないまま一生を終えるのが理想。
ただ何が起きたかは学ぶ必要はある。
ダイレクトな書籍や映像も大切だが、岡本作品から間接的に学ぶのもいい。
少なくとも「独立愚連隊」「狂人狂時代」「肉弾」は観ておかないと。
いつか観ようなんていってられないな。
個人的に黒沢清監督作品を評論するのは難しい。
前作「スパイの妻」はヴェネチィア国際映画祭銀獅子賞作品で評価も高かったが、
僕の中ではそれほどでもなかった。
面白くないといっているのではない。
人物の描き方が特徴的過ぎて、上手く感情移入できなかった。
それはセンスとか好みの問題であくまでも個人的なこと。
数多い受賞が優れた作品の証。
異論を唱えるつもりは毛頭ない。
そんな意味では、本作も絶賛する者とそうでない者と分かれるだろう。
やはり描き方は独特。
僕はミステリアスな予告編に惹かれ足を運んだが間違いはなかった。
黒沢監督のセルフリメイクとは知らなかった。
どうやら前作と比較しながら観るとより魅力的に感じるようだ。
今は出番のない香川照之が主演のようなので機会があれば観てみたい。
黒沢作品で彼が主役の「トウキョウソナタ」は素晴らしい作品だし。
本作の舞台はフランス。
フランス・日本・ベルギー・ルクセンブルグ合作だが、タイトルからエンドロールまで全てフランス語。
ルクセンブルグあたりはどう絡んでいるんだろうね(笑)。
柴咲コウ演じる精神科医の小夜子はフランス語、英語、日本語を操る。
柴咲コウのフランス語がどこまで上手いかは分からないが、違和感なくドラマは展開。
これだけクールな彼女を観たのは初めて。
表現は正しくないかもしれないが、カッコいい。
いや、ちょっと違う。
冷徹で狂気か。
笑うことも泣くことも一切ない。
やや怒った表情しか映し出されない。
それは過去の出来事がそうさせていると後で気づかされる。
笑顔がステキな女優さんなのに・・・。
少しだけ説明すると、娘を殺された父親と彼に手を貸す精神科医小夜子が繰り広げる復讐劇。
父親が娘を殺した犯人を捜し追い詰めるのだが、主導するのは小夜子。
正直、この父親は人間っぽいのか、バカなのかよく分からない。
小夜子はそれを見切っていたのかもしれない。
そのあたりの描き方が実に難解で黒沢監督的。
観る者を惑わせる。
正しさが存在するようで、正しさのかけらもない。
ストーリーと何ら関係のない西島秀俊もきっと大きな意味があるはず。
現段階で僕には分からないので、誰か教えて欲しい。
画面越しの青木崇高は理解できるが・・・。
不思議マークがつくことの多い黒沢作品だからこそ芸術性が高いと評価される。
これからもそんな不思議さを求めて、僕も観てしまうんだろうね。
今年はドキュメンタリー作品を観る機会が多い。
「ビヨンド・ユートピア 脱北」
「劇場版 再会長江」
「Ryuichi Sakamoto | Opus」
珍しく音楽関係が続いた。
特に詳しいわけでも、好きなジャンルというわけでもない。
たまたまタイミングがあったのが正直なところ。
本作も観なきゃ知らないまま終わっていた。
加藤和彦という稀有なミュージシャンを理解できたのは観たからこそ。
僕が知っているのは「帰ってきたヨッパライ」と「あの素晴らしい愛をもう一度」くらい。
映画「パッチギ」にも取り上げられていたことも。
最低レベルの知識。
あとは紳士服のトリイのCMに出演されていたことを何故か印象強く覚えている。
トリイは2003年にAOKIと資本提携し、その後合併した名古屋の紳士服量販店。
僕が新卒事業の責任者をやっていた頃、リクルートスーツの販促でお世話になっていた。
コラボで関わっていたこともあり印象に残っていた。
本作とは関係ないが、その程度の知識だった。
こんなに才能溢れる音楽家ということを作品を通して初めて知った。
日本の音楽界に与えた影響は大きい。
ただそれを理解しているのは一部の方だけではないか。
吉田拓郎や坂本龍一、高橋幸宏を知っていても加藤和彦を知らない人は少なくない。
僕自身も知っているとはいえ、映画化されるほどではないと思っていた。
反省・・・。
そして恥ずかしくも思った。
新しい分野を切り開き、多くのミュージシャンも育ててきた。
思い切りリーダーシップを発揮し引っ張ったのではなく、気の向くままさりげなく巻き込んでいく。
演出かもしれないが、感化され見事に巻き込まれいく。
取材を受ける豪華なアーティストや業界関係者をみれば一目瞭然。
その重ねられたインタビューから加藤和彦そのものが映し出されていく。
ハナリー島の大統領らしき人がラストは感動してしばらく席を立てなかったと言っていたが頷ける。
さほど思い入れのない僕でさえ涙がこぼれそうになった。
残念ながら62歳で自殺してしまったが、その想いは今も語り継がれているのだろう。
多くの方がその死を防げなかったのを悔やんでいた。
映画館の観客は多分、僕が最年少。
ほとんどは同世代を生きてきた方。
喜びも悲しみも抱えて観ていただろう。
今年はドキュメンタリーをもっと観ようと思う。
そして、カラオケで「あの素晴らしい愛をもう一度」を歌おうと思う。
そんな作品だった。
前回の続き。
ダナン周辺も観るべきスポットは多い。
有名なホイアンへの観光は夜が遅かったので諦めた。
9年前に一度訪れたことがあるし・・・。
その時は食べ物ブログで紹介してたか。
夜は夜で魅力的だろう。
最終日はゴルフ組と観光組と分かれた。
ブロッサムリゾートチームは観光へ。
充実の朝食後、体を整えて向かったのは五行山。
結局、フォーは朝食ばかりだった。
もっと食べればよかったね。
こちらは初めてお邪魔する観光地。
到着すると既に凄い人の賑わい。
日本人はほぼいない。
ほとんどが中国人か韓国人。
観光バスで到着し、大人数が一気に押し寄せてきた。
5つの連山で「マーブルマウンテン」と呼ばれていると帰国後知った(笑)。
パワースポットとしても有名なのも人気の理由。
歴史は古く「西遊記」の孫悟空も閉じ込められていたという。
500年も閉じ込められていたなんて全然知らなかった。
階段で登ることもできるが、かなり急なのと暑さのためエレベーターで移動。
そこからの景色もなかなか。
サーロイ塔を背景に記念写真を撮り、タンチョン洞窟へ。
ここはさすがに癒される。
歴史も十分に感じることができた。
階段を降りて、せっかくなのでアンフー洞窟にも足を運ぶ。
こちらは別料金。
こちらは地獄をイメージしているようだ。
中に入ると時折LEDで照らされる仏像が・・・。
少し違和感を感じたが、こんな演出も観光客には喜ばれるのだろう。
ダナン湾沿いを走り向かったのはリンウン寺。
信仰心は薄いがここはしっかりと拝む。
レディブッダは全長67mでベトナムでは一番大きな観音像。
こちらの歴史は浅い。
どうしても僕らは観光目的になってしまうね。
ここから眺める景色もいい。
ベトナムでは普段行かないマッサージも経験。
疲れが取れたかも・・・。
最後もベトナム料理を楽しむ。
結局、ビールばかり飲んでいた。
こうして充実した4日間が終了!
といいたいが、最後の最後にハプニングが起きた。
何かの手違いで仲間の一人のパスポートが入れ違い。
その対応でバタバタし、自分たちの搭乗がギリギリとなった。
僕も大慌てで保安所を潜ったため、
アップルウオッチをX線検査のトレーに置き忘れてしまった。
仲間が積極的に動いてくれ、数日後、手元に戻ったが、あり得ないミス。
英語ができる仲間や現地で動いてくれる仲間がいて本当に良かった。
まだまだ半人前。
自分一人だったら対応できなかった(汗)。
海外は他人任せの行動しかとらないが、この時ばかりは英語の必要性を感じた。
反省・・・。
カタコト英語では何も伝わらなかった(汗)
それでも充実したベトナム研修旅行。
西川塾のみんな、お疲れ様でした。
そして、ありがとうございました。
先週に続き特別編をお送りします。
伏見シリーズを待ち望む読者も多いとは思いますが、
286回ともなると新しいお店を紹介するのも一苦労。
不在が多いと伏見でランチをする日も限定されます。
しばし、お待ちください。
来週にはお届けできるのではないでしょうか。
前回に続き、長野県になります。
長野の観光といえば善光寺。
そして長野の食べ物といえば蕎麦になるでしょう。
期待を裏切らないベタな感じがいいじゃないですか。
今回は仕事のついでに観光しました。
長野市のパートナー企業に訪問する流れで善光寺に参拝しました。
あくまでも仕事優先なのです。
善光寺にお邪魔するのは十数年振り。
子供がまだ幼児の頃。
20年振りかもしれません。
家人は行ったことすら忘れていました。
本堂で参拝し、お戒壇巡りも体験。
本当に一寸先も見えない暗闇でした。
共通券で三堂を巡った後は食事となります。
門前町にお店を構える「小菅亭」さんに行ってきました。
店構えからこじんまりしたお店かと思いましたが、奥に広く宴会でもできそうな感じ。
早い時間にお邪魔したので空いていましたが、
奥の方はどうやら予約で埋まっているようです。
この日はTシャツ1枚でも十分な気候。
やはりざるそばが食べたくなります。
パッと目に入った品を注文することにしました。
穴子天ざるそば 1584円
家人は天ざるそば(上)を注文しました。
ざるそばは結構なボリューム。
ざる1枚では物足りないことが多いですが、これでも食べ応えがあります。
そばはコシもあり、香りも豊か。
こんなそばであれば毎日食べたくなります。
揚げたての穴子は大きく天つゆで頂きます。
ビールが飲みたくなりましたが、ここは我慢。
もちろん日本酒も我慢です。
こんな瞬間もシアワセなひと時ですね。
平日はセルフでコーヒーのサービスもあります。
蕎麦湯と一緒に頂きました。
せっかく地方にお邪魔したのなら、その土地の名物が一番です。
次回はいつお邪魔できるでしょうか。
誰か呼んでくれませんかね・・・。
ごちそうさまでした。
正直、面白いとは言い難い。
映画にハラハラドキドキや痛烈なメッセージを期待する人は止めた方がいい。
今の若者ならオープニングの数分も耐えられないかもしれない。
きっと早送りしたくなる。
逆をいえばそれを気にせず、映画に向き合える方なら楽しめるのかもしれない。
いや、楽しめるという表現は間違っている。
本作を楽しむことはできない。
恐怖を感じることしかできない。
ホラー映画ファンなら恐怖は快感に変わる。
しかし、本作は快感には程遠い。
鈍感で無関心な人が何も感じない程度。
実は何も感じないのが一番恐ろしかったりする。
毎日報道される紛争のニュースも慣れてくると不感症になる。
自分とは関係ない遠い世界の出来事と思えてくる。
常に当事者意識と緊張感を持たないと物事に鈍くなる。
大切なのは半径10メートルの世界。
そこにしか関心が向かなくなる。
それっておかしくない?
ということを本作は何も発せず教えてくれる。
人が殺される残虐なシーンは一切ない。
人を傷つける言葉もない。
静かに平和な暮らしを描いているだけ。
余計な雑音さえ消してしまえばシアワセそのもの。
どアップの無音の映像だけなら気づかないはず。
チャップリンは
「人生はクローズアップで見れば悲劇だが、ロングショットで見れば喜劇だ」
といったが、そうではない。
クローズアップは幸せで、ロングショットは不幸。
遠くを見れば現実が目に入ってくる。
耳を澄ませば本当の音が聞こえてくる。
それを感じさせてくれた辛い作品。
今年は後味の悪い作品を結構観ているが、その中でもバツグンかもしれない。
まあ、これも映画の味わい方ということで・・・。
特に説明する必要もないが本作はカンヌ映画祭グランプリ作品。
アカデミー賞でも国際長編映画賞を受賞。
数々の賞を受賞しているが、面白いとは言い難い。
アメリカ・イギリス・ポーランド合作ではあるが、舞台のドイツは関わっていない。
何か大きな理由でもあるのだろうか。
捉え方は様々だが、観るべき1本であるのは間違いない。
できれば観たくなかった。
でも、観ようとする自分を抑えきれなかった。
案の定、落ち込んだ。
救いようのない気分になった。
予告編を観た段階で、相当辛い作品であることは理解できた。
観たいけど、観たくない。
そんな気持ちだったが、同時に観なきゃいけないという妙な使命感に駆られた。
本作は実話をベースに制作。
それもコロナ禍を描いた最近の出来事。
コロナは多くの方に被害をもたらし不幸へ陥れていた。
主役杏もその一人。
しかし、ここで描かれるコロナはひとつのキッカケに過ぎない。
コロナが原因とは言い難い。
その背景にある取り巻く環境がすべて。
幸せは連鎖する。
同時に不幸も連鎖する。
ひとつ歯車が狂い始めると全てが狂う。
それに翻弄されるのはいつも弱い者。
河合優実演じる杏は12歳の時から売春をし、16歳から麻薬に手を出す。
無責任にいえばとんでもないヤツとなるが、そうではない。
完全な被害者。
毒親の下、そうせざるを得ない生活。
ほんと毒親だ。
観ている最中も腹が立って仕方なかった。
演じる河井青葉の上手さもあるが、憤りを通り越す。
しかし、冷静に考えるとこの毒親も被害者なのかもしれない。
一見、大人しい年中、服装の変わらない祖母の存在がそうさせているのかもしれない。
あくまでも想像の範囲内。
この類の作品を観るといかに健やかな家庭が大切かを痛感する。
本人には何の責任もない。
だらしのない周りによって別のカタチにさせられてしまう。
本作も救いの手が伸びる。
刑事役の佐藤二朗であり、ジャーナリストの稲垣吾郎であり。
それが上手くかみ合い、少しずつ成長していく姿で終わればハッピーエンド。
杏の未来にエールを送ることができる。
なぜ、そうしない。
なぜ、そこで映画を終わらせない。
それでいいじゃないかと思ってしまう。
現実は悲しい。
それが実話であるともっと悲しい。
実話をベースにした作品は一方で感動を呼び込むが、一方で僕を奈落の底に落とす。
とても辛い作品だった。
ただ目を背けず、多くの方に観てほしいとも思う。
この感情を大切にし、自分の周りだけでも不幸を出さない行動に繋げたい。
主役杏は「不適切にもほどがある!」で話題となった河合優実。
「サマーフィルムにのって」も「由宇子の天秤」も好演したが、そこまでの印象ではなかった。
本作はヤバい。
恐ろしいほど感情を持っていかれる。
今年の主演女優賞は杉咲花か石原さとみかと言っていたが、彼女がくるかも・・・。
重い作品を避けたいなら、彼女の演技だけを目的に観るのもいい。
ついでに重さを味わえばいい。
実話ではなくフィクションであって欲しいと痛切に願う作品だった。
吉田恵輔監督は時代に翻弄される人を上手く描く監督。
それも今この時代を鋭く切り取る。
「空白」ではマスコミの偏った報道で勘違いされる人を、
「神は見返りを求める」ではSNSに極度にハマっていく人を描いた。
本作はその両方。
よほどマスコミに恨みを持ち、SNSを懐疑的な存在と認識しているのではないか。
過去、酷い目に合っているのかな(笑)。
しかし、ここはリアル。
中身はともかく実際に被害に遭っている人は多い。
正義感を振りかざす無責任な存在が人を陥れていく。
その餌食になった人が壊れていく。
石原さとみ演じる沙織里は娘が失踪したばかりの時はまっとうだったはず。
感情的だが、当初は青木崇高演じる夫・豊よりも冷静だったかもしれない。
豊は時間と共に冷静さを取り戻したように思えるが、沙織里はエスカレートしていく。
本作はそんなところから始める。
それはあくまでも僕の想像。
マスコミとSNSの反応で徐々に感情むき出しになり、もう誰にも止められない。
傍からみれば異常と受け取れる。
実際、自分や身内が同じ立場になったらどうか。
冷静のままでいられるか。
SNSの書き込みなんて見なきゃいいというのも正論で僕も同じことを言う。
しかし、本当にそれを我慢できるか。
多くの人は弱く、他人の言動が気になり、それにより精神がやられていく。
映画では過激な沙織里が加害者に見える時もあるが、一番弱い被害者ということ。
真摯に向き合う豊の存在がなければ、人が壊れるだけでなく家族も崩壊した。
きっと知らないだけで現実問題として起きているのではないか。
そんな意味でも現代社会を失踪事件に絡め上手く表している。
吉田監督はこれからの作品も期待したい。
今までは暗い作品が多かった。
先に紹介した2作もそうだし、
(「神は見返りを求める」はコメディ要素はあるが)
好きな「BLUE/ブルー」も暗い。
次回は明るく前向きな世界を描いて欲しい。
それにしても本作は石原さとみに尽きるかな。
あんな美しくない彼女も初めて。
街ですれ違っても振り返ることはない。
女優魂も立派と感じた作品だった。