大体においてボクシングを題材にした映画は暗い。
そして重い。
登場人物もまともなヤツは出てこない。
そのほとんどが過去を背負い病んでいる。
それは殴り合いを基本としたスポーツだからだろうか。
近い競技でも他は健全だ。
ボクシングだけが暗くて重い。
そんな気がする。
でも、僕はその世界に何故か惹かれる。
「キッズリターン」も「どついたるねん」も「百年の恋」も好きだ。
他にもあるが思い出せない。
映画じゃなくても「あしたのジョー」も好きだし、沢木耕太郎の「一瞬の夏」も好きだ。
実際の試合はほとんど観ないというのに・・・。
そんな点では本作は期待を裏切らない。
いや、期待以上。
間違いなく主役である新宿新次もバリカン健二も病んでいる。
そこがたまらなく愛おしく、吸い込まれていく。
前篇、後篇併せれば5時間を超える長い作品。
映画コラムニストを名乗り映画に対して一定の時間を作る身でも、
簡単に5時間を一つの作品に割くことはない。
それが本作ではその時間を惜しいとも思わず、ものの見事に奪われてしまった。
5時間の長さを感じることもなく・・・。
映画の原作は寺山修司氏。
そのせいか舞台は1970年代を匂わせる。
しかし、実際は2021~2022年と少しばかりの将来を描いている。
ドローンも飛んでいれば、憲法が改正され徴兵制も実施されようとしている。
舞台となる新宿もまさに現代。
だが、香りは1970年代。
そのギャップも本来人間が持つコンプレックスや反逆心らの感情が埋めてくれる。
人が欲する繋がりも・・・。
一昨年公開された映画だが、劇場で観ておくべきだったと猛烈に後悔。
あの暗い空間ならもっと感じることができたかもしれない。
そして、殴り合いも迫力があり魅力的。
菅田将暉扮する新宿新次もヤン・イクチュン扮するバリカン健二も完全にボクサー。
その殴り合いのシーンもそうだが、この2人の存在感には唸らされる。
「息もできない」のヤン・イクチュンとはまるで別人。
2人とも主演男優賞で問題ないだろう。
本作はR15指定。
それは映画を観れば納得できる。
その切ない女優陣の演技も感情を揺さぶり、見逃せない。
これが日本の正しいボクシング映画。
寺山修司氏の原作も読んでみる必要はあるな・・・。