かつて名古屋駅前に松竹座という立派な映画館があった。
僕は大学時代、名駅の他の映画館でアルバイトをしていたこともあり、
この映画館にはちょくちょくお邪魔していた。

大半はタダ券をもらって観ていたが、これはという作品は前売り券を購入し観ていた。
名古屋を代表する大きな映画館だった。
カップルシートなんていう特別な席もあった。

昭和のよき時代。
年末年始には必ず「寅さん」が上映されていた。
松竹の看板作品。
確か当時は2本立て。
「釣りバカ日誌」も最初は2本立てのサブ的な作品だったかと思う。

映画の冒頭は必ず寅さんの夢から始まる。
ハッと目が覚め現実が訪れる。
それは本作も同じ。
いきなりオマージュじゃないか・・・。

どうだろう。
僕は「男はつらいよ」を何本観ただろうか。
リアルで観た作品は少ない。
1作目や2作目は山田洋次特集かな・・・。
全作品のうち1/3も観ていないし、ほとんど忘れてしまった。

しかし、寅さんが語る
「結構毛だらけ猫はいだらけ。穴のまわりはクソだらけ」
は最高だった。
あの軽妙な口調は渥美清だからこそ成し得たのだろう。
そんな過去の寅さんシリーズを思い出させてくれるのが本作の最大の魅力。

タイトルにある通り、映画を観る者全てが寅さんにお帰りを言い、過去を懐かしむ。
それは昔の時代は良かったというように・・・。
映像のタッチも昭和そのもの。
一つ一つに会話も今よりも丁寧で懐かしさを感じさせる。

セリフも普通ではあるが、普段会話では使わない表現が多い。
そんな感じ。
それが山田洋次監督が求めていた世界かもしれない。

本作は原題をを進行させながら過去をシンクロさせていくのだが、使い方が絶妙。
特に第1作目?の映像がいい。
倍賞千恵子さんはあんなに可愛かったんだ・・・。
今やすっかりおばあちゃんだが(映画の中もね・・・)、当時はとてもチャーミング。
博が惚れるのも仕方ない。

そんな感じで本作は過去の作品を少しずつ引っ張り出し、寅さんのせつない恋愛遍歴を映し出す。
観る者は当時をオーバーラップさせ、寅さんとの思い出を懐かしむ。

言い方を変えればズルい作品。
それでも観たいと思うし、観て感動してしまうから不思議。
それが一般的な捉え方だが、本当は別の意味合いも。
もしかしたら山田洋次監督は違うメッセージを訴えたかったんじゃないのかな。
今の時代に・・・。

それにしても正月に観るには相応しい映画。
日本映画は寅さんで一年をスタートすべきなんだろうね。