本書は約2年間、寝かせていたことになる。
出版と同時に購入したものの、いずれと思っているうちに時間だけが過ぎていった。
最新のビジネス事例でもなければ、直近の自分の課題でもない。

空いた時間にゆっくりと好きに読めばいい本。
本来、読書の幸せって、そんなところにあると思うが、
目まぐるしい毎日を繰り返すうちに楽しみ方も変わったかもしれない。

改めて感じた。
沢木耕太郎は僕が最も好きな作家だと。
作家というよりはルポライター。
本書でいえばエッセイストだ。

本書は2018年まで25年間のエッセイが収められている。
「歩く」「見る」「書く」「暮らす」「別れる」の5部構成。
沢木氏特有のスポーツ、旅、映画、人などなど。

僕はその切り口や語り口が好きだし、こだわってないようでこだわりを持っているのが好きだ。
そして、不思議に思うのは、なぜ、沢木氏はこんなに人を惹きつけるのか。
それは読者のことをいっているのではない。

取材される対象がことごとく彼に好意的で全てを明かしていく。
一般的に取材対象となる側は一定の距離を置きたがる。
相当な信頼関係ができれば別だが、沢木氏の場合はことごとくといっていい。

提灯記事を書くわけでも、饒舌に営業しまくるわけでもない。
義理堅く律儀なのは間違いない。
しかし、失礼な言い方をすれば、かなり自分勝手な人物。

新卒で入社した会社を1日いや半日で退職したのも象徴的だが、
自分の都合で海外へも飛び立ってしまう。
それが当然であるように思えるし、周りはそれが悪いことというより好意的に受け入れる。
僕もそこに惹かれる一人だし、憧れ羨ましく思う。
これほど偶然を自分のものにしてきた方もいないだろう。

その代表的なエピソードが高倉健さんとの出会いから最後の別れまで。
何をもって日本を代表する寡黙な俳優が沢木氏に心を開いたのか。
特別な存在なのは、このエッセイからも容易に想像できる。

お互いリスペクトする要素が多かったというのか。
なんだかチープな表現・・・。
ただこの関係性だけでも泣ける。

もう少し時間的余裕ができたら、過去の作品も読み返してみたい。
僕の感情もかなり変わっているだろう。
と同時に新作も期待したい。

いつまで精力的な活動をされるかわからないし、今、この時間をどう過ごすかも知らない。
果たして東京オリンピックも取材するのだろうか。
70代半ばの体はキツいと思うけど。
それでもこの先も楽しみにしていきたい。

本書を読み改めて好きな作家と認識したので・・・。