ちなみに僕は映画コラムニストであって映画評論家ではない。
評論家は作品のいい悪いをバッサリやってしまうが、
僕は基本的に作品をけなすことはない。
少々つまらない作品でもいいところを探し褒めている。
要するに映画業界に迎合しているのだ(笑)。
そんな言い方はよくないな。
業界を盛り上げようとしているのだ。
その段階で監督らにボロカスに叩かれそうだけど。
本書は日本映画界をリードする監督らのトークバトル。
中でも荒井晴彦氏や白石和彌氏は僕が好きな監督で、最近の作品はほぼ観ている。
彼らは時に映画評論家に対して持論をぶつける。
その視点はさすが作り手と思わせるが、むしろ監督らの映画評が面白い。
これも作り手ならではの着眼点。
トークバトルはいくつかのテーマに分かれ、いくつかのミニシアターで繰り広げられる。
コロナで苦しむミニシアターを支援する意味も込められている。
全ての章の感想はいえないので、気になった点だけ披露したい。
クリントイーストウッドと高倉健に対する見方は僕と大きく異なる。
僕は最近のクリントイーストウッド作品は絶賛しているが、ここでは逆。
完全にこき下ろしている。
特に荒井氏は厳しい。
「15時17分、パリ行き」は3人の若者がテロリストを制圧しただけの話、
「運び屋」は麻薬の運び屋が家族との関係を修復しただけの話と容赦ない。
確かにその通りだが、そこに大きな感動があるのに・・・
と思うのだが、求めるのはそこではないようだ。
評価しているのは「ペイルライダー」だったりする。
その思想から入るセリフを評価したり。
高倉健に対しても、後半の作品にはまあまあ厳しい。
最近でいえば国内外の映画賞を受賞し、キネマ旬報で1位になった「スパイの妻」も酷評している。
それはやっかみではなく、同じ映画の制作者側の視点から発する。
荒井氏は脚本家出身だけあって、時代設定や当時の文化、経済事情の粗も指摘する。
白石氏が反論するが、一蹴してしまう。
このトークバトルは4人で構成されているが、
最年長の荒井氏から10歳ずつ程、全員の年齢が離れている。
その先輩後輩の関係性や観てきた映画の解釈の違いはとても面白い。
影響を受けた人物や感動した作品も異なる。
映画への向き合い方もビミョーに違ったり。
危惧していたのは作り手の拘り。
大衆に迎合する作品ばかりになるのではという危機感があり、
それに伴い観る側の質も低下するのではないかと。
確かに難しい映画を分かったふりをするために価値ある情報を入手する、
そんなことはなくなっているかも。
僕の映画コラムもわ~っと勢いでまとめるだけでなく、
もっと深い考察を入れなきゃ。
映画を観るための新たな視点も頂いた本書だった。