例年、この季節になると戦争の悲惨さや愚かさを伝える特集番組が組まれる。
意味があり、続けることで同じ過ちを繰り返さない戒めにもなる。
映画も同様。
この時期には反戦要素の強い作品が公開される。
それも大切なこと。
ただ僕らが見る世界は日本が舞台で、その悲劇を伝えるのがほとんど。
あくまでも自国の目線が中心。
それは間違ってはいないが、視野を広げれば、
同じように悲劇を繰り返さないために作られた海外の作品も多い。
本作もそう。スロバキア・チェコ・ドイツの合作。
アウシュヴィッツ強制収容所で起きた実話を描いている。
自国を否定する映画を作るドイツは尊敬に値するし、
僕らが知らない世界を映画という媒体を通し歴史認識が深まるのは感謝すべき。
ホロコーストの事実をおぼろげに認識しても、実態を知る機会はあまりない。
本作を通して、戦争の悲惨さを改めて学ぶことができた。
簡単にいえば、アウシュヴィッツ強制収容所を脱走した若者が、
真実を伝えることで12万人のユダヤ人の命を救ったストーリー。
しかし、そこに感動はない。
厳しい事実を見せつけるだけ。
演出された映画ではあるがドキュメンタリーの再現ドラマにも思える。
余計な感情を排除し、真実に基づいた出来事を忠実に伝える。
それがメッセージとなり、僕らはアウシュヴィッツ収容所の恐怖を認識する。
昨年、観た「サウルの息子」はハンガリー系ユダヤ人からの角度だったが、
本作はスロバキア系ユダヤ人の角度。
角度を広げれば解釈も広がる。
映画は楽しむものであり、学ぶものだと改めて実感。
脱走する主役の2人は、「逃げる」ことが目的ではなく「伝える」ことが目的。
その方が危険度は高い。
肉体や精神が破壊してもおかしくない極限状態が続く。
それを支えるものは何なのか。
ラストの長回しでまざまざと受け止めた。
映画の冒頭で「過去を忘れる者は、必ず同じ過ちを繰り返す」と
哲学者ジョージ・サンタヤーナの言葉が紹介される。
エンドロールには各国の首脳の発言が・・・。
それが映画の最大のメッセージなのか。
この時期に日本で公開されるのも大きな意味があるのだろう。