映画を愛する人が喜びそうなストーリー。
嬉しくなったり、悲しくなったり・・・。
今年はなぜか映画を題材にした作品が多いように思う。

僕が観ただけでも
「のさりの島」「サマーフィルムにのって」「キネマの神様」
と最近は特に多い。

何か裏があるのだろうか?
僕を意識した映画製作をしているのだろうか?
勘ぐってしまうが、たまたまなのかもしれない。

本作は閉館になりかけの歴史ある映画館を救う話。
ありがちといえばありがちだが、
その佇まいというか、醸し出す映画館の匂いがすこぶるいい。

それは実在する映画館朝日座をそのまま使用しているのが理由かもしれない。
セットでは成し得ない”らしさ”を出すことで人の郷愁を誘う。
今、もぎりをやっている映画館なんてあるのだろうか。

35年前の学生時代を思い出してしまった。
僕は大学の4年間、名古屋駅の映画館でバイトをしていた。
今はミッドランドスクエアシネマと呼ばれている映画館。
当時、売り場でチケットを買い、入り口でチケットを半分切り取り半分をお客さんに渡す。
基本は今も一緒か・・・。

ただそれを1館1館で賄っている。
上映が始める前は忙しいが、映画が始まれば何もやることはなく、
(昔はほとんど自由席で、途中入場するお客さんもいたし)
ボーっと座っているだけ。
時給は恐ろしく安かったが、仕事は楽チンだった。

本作でそんなどうでもいいことを思いだした。
何しろ35年前の香りがしたから。
登場する映画館は地方の単館なので、そうはいっても名古屋駅のバイト先とは違う。
大須にあったピンク映画専門の映画館に近い。

しかし、ここで描かれているのはそんな過去の話ではない。
東日本大震災を乗り越え、コロナ禍にある現在進行形の福島県南相馬。
高畑充希演じる茂木莉子が恩師の希望を叶えるために、
あの手この手で映画館の存続に奮闘する。
イマドキっぽくクラファンを使ったり・・・。

ありがちな展開で斬新でもないが、どんどん映画に吸い込まれるし、愛おしく感じる。
カメラは莉子と支配人の2人を正面からずっと捉えている。
これがタナダユキ監督の特徴か。

恩師役の高校教師大久保佳代子との2ショットの長回しが多い。
それが自然の流れで日常に思えてくる。

あばずれ教師の大久保佳代子がはまり役でいい味を出している。
自身の代表作になるんじゃないか。
最後のセリフは想像できたけど。
ふわりとした映像と演出、思わず吹き出すシーンも多く娯楽性は高い。

しかし、その裏にあるメッセージは人間の本質を突く。
それを軽々しく口にする莉子。
そこに真のリアルがあるのかもしれない。
家族の絆も自然災害であっという間に崩れ去るのかと。
これから大切にしていかなきゃならないことも教えてくれる。

数年前まで全然かわいいと思わなかった高畑充希の魅力が溢れる。
これで好きになった。
彼女の持ち味が上手く引き出されている。

終わり方も含め好きな作品。
人をおちょくったタイトルもいい。
映画を観て初めて理解できると思うけど。