観終わった後、「う~む」と唸ってしまった。
先日の「マスカレード・ナイト」と違い、かなり考えさせられた。
重い苦しさが体を覆った。

映画は「マスカレード・ナイト」のように娯楽性が高く楽しく終えられるのが理想。
一方で真逆の終わり方する映画もなくてはならない。
僕はどちらか選べと言われれば、後者を選んでしまうのかもしれない。
二者択一であれば「由宇子の天秤」を好きな作品で選ぶ。
自分ではまっとうな人間と思っているが、結構ひねくれているのかもしれない。

本作の問いは”正しさ”とは何か。
一般的に正義とか正しさには正解がある。
これが正しくて、これが間違っている。
子供でも分かる話。

それは上辺の解であって、実のところ”正しさ”なんて自分が勝手に思っていることに過ぎない。
立場や環境が変われば、その正しさは180度変わる。
それが現実であり、社会で生き続けるということ。
最終的には主観で判断するしかない。

本作はそれを観る者に突き刺してくる。
正義をかざすものが本当に正義なのか。
ただの偽善者じゃないのか。
立場を都合よく利用しているだけじゃないか。
そんなふうに思わせる。

毎日報道される世界的なニュースも目の前で起きる些細な出来事も、
大した差はなく自分勝手な正しさで動いていく。
悲しいかな、それに影響を受け、僕らはその視点で解を導き出す。

なんとも暗い話になってしまったが、映画はそれを主張しているように思える。
いやいや、なかなかの物語りじゃないですか・・・。

本作が世間でどれだけ注目されているかは分からない。
しかし、僕は何度となくミリオン座で予告編を観て、自分の中の必見映画となった。
間違いではなかった。

それは僕の中での正しさ。
もちろん瀧内公美という映画では輝く女優を見たいという思いもあった。
僕は彼女の屈託ない笑顔が好きだ。
但し、本作では作り笑顔くらいしか見られない。
過去の作品は大胆な絡みが話題となり、一昨年の「火口のふたり」では主演女優賞も獲得。
本作はそんなシーンも一切ない。

ドキュメンタリーディレクターとして正面からぶつかり、葛藤していくばかり。
それがまたいい。
身内にも関係者にも取材対象にもカメラやスマホで撮り続け真実を掴もうとする。
それが自分を苦しめることになっても・・・。

そして、映像は肝心な場面を映さない。
正面から表情を押さえるべきシーンも側からの撮影。
それがリアルさを醸し出したり。
ラストシーンは驚くね。

由宇子(瀧内公美)の父親は光石研。
これってどこかでと思ったが、「彼女の人生は間違いじゃない」でも父と娘を演じていた。

これは偶然?
これも天秤にかけてるの?
なんては思わないが(笑)、よく出来ている。

毎年、日本映画は秋に優秀作が上映される。
それは”正しい”ようだ。
自分の中の正しさだけだけど。