まるで映画だ。
出演者はなんて上手いんだ・・・。
観終わった後、そんなことを感じてしまった。
いや、厳密にいえば映画が進行中にそんなことを感じてしまった。

一体、何わけ分からないこと言ってるの?
と思う方が大半だろう。

本作はドキュメンタリー作品。
演出された作品ではない。
しかし、僕がこれまで観てきたドキュメンタリーとは一線を画すというか、
全く違う世界を見ているよう。

一般的にドキュメンタリーは撮影は同時進行でありながらも、それを補足するナレーションが入る。
時にそのナレーションがドキュメンタリーの出来を左右する。
何を語るか、どんなメッセージを送るかが作品の力となる。

本作はそれが一切ない。
ナレーションが一切ないのだ。

当事者を正面から捉え、そこに何かを加えることなく真摯に映し出している。
観る者は映画のシーンと錯覚する。
その表情、その言葉、その動き、完璧な演出と感じたのは僕だけではないはず。

出演者が上手いというのはカメラを意識することなく、
(多少は意識しているだろうが)
ありのままを語っているからだ。

ここに描かれている世界は現実。
とてつもなく恐ろしい現実。
テロ集団が誰かを攻撃しようとしているのではない。
小さな殺人事件を追っかけているのではない。

ルーマニアという国の暗部を真正面からあぶり出している。
思わず息をつく。
思わず唖然とする。
これが現実か・・・。

これが映画なら、「何やってんだ!!」と客観的に怒りがこみ上げる。
しかし、同時進行で進むある種のストーリーは恐ろしさがつきまとう。
このままスポイルされてしまうのではないか。
それを匂わせるシーンもある。

同時に感動が身を包む。
恐れをなさない新聞記者、自らの行動を信じる新大臣、大きな敵に立ち向かう医師。
彼らの動きが感動を生み、勇気ある行動を促す。

その正義で正すことができればハッピーエンドで終わるが、簡単に国が変わることはない。
やはり映画とは異なる。
こんな深刻な国があるんだと悲観的になるが、極端なケースといえるだけ。

果たして自分たちはどうなんだろう。
ルーマニアは若者の投票率は5~10%。
国に何も期待していないのかもしれない。

さて、我が国は・・・。
新政権発足、総選挙の時期にこの作品が公開されるのは大きな意味があるのかもしれない。