本書は書籍広告をぼんやり見ていたら、買ってくれ!とばかりに目に飛び込んできた。
無意識的にこの分野に関心があるのだろうか。
仕事とは直接関係ないが、自分が読まなければならない使命感にかられ手に取った。

なるほど、こんな視点で映画を観ることも大切。
少し前に読んだ「仕事と人生に効く教養としての映画」にも
「パラサイト 半地下の家族」や「万引き家族」が紹介されていたが、本書は別視点。
どちらにしても現代社会を表す代表的な作品といえるのだろう。

本書は格差をテーマに13本の映画を紹介している。
前述した作品以外に「ジョーカー」「ノマドランド」
「わたしは、ダニエル・ブレイク」「家族を想うとき」の6本は鑑賞済み。
残りは未鑑賞だが、タイトルすら知らない作品もいくつか。

映画コラムニストとしてはまだまだだと思いつつ、
どうエッジを立てていけばいいのか本書を読みながら学ぶこともできた。
一体何をしようと企んでいるのか・・・。

著者の町山氏は時代が映し出す格差を徹底的にあぶり出す。
それも作品に留まることなく、監督の傾向性を語る。
監督論の書籍といっても間違いではない。

例えば「パラサイト 半地下の家族」のポン・ジュノ監督については育ってきた環境から
デビュー作の評価、社会との関わり、韓国経済が監督にもたらした価値観まで深く掘り下げている。
ポン・ジュノ監督がなぜ「パラサイト~」を作るのか、その背景まで理解できるのだ。

その上で国内に広がる「格差」を強烈な映像をメッセージとして送り続ける。
「万引き家族」の是枝監督も同様。
過去の作品が何らかの形で繋がっているのだ。
予想以上に監督のこだわりは一貫しておりシンプル。

それが社会性を生む出している要素でもあるだろう。
ケン・ローチ監督なんてその代表選手なのかもね。

格差といっても国により事情は異なる。
非正規雇用、生活保護、ワーキングプア、虐待など背景は異なるが、
すべて貧困に繋がっているのは事実。
犠牲は子供だけでなく、シングルマザーでも老人でも。

映画を観るとハッとさせられるが、普段の生活ではあまり感じることはない。
せいぜい悲惨なニュースを見て嘆くくらい。
まだ偏った見方もあるだろうし、僕自身が「自己責任」に拘っている面も多い。
映画はその認識の甘さを否定してくれ、別の角度から大切なことを教えてくれる。

本書に登場する監督は過去の作品や監督から影響を受けているが、
代表的なのはチャーリー・チャップリン。
「キッド」でも「モダン・タイムズ」でも「黄金狂時代」でも職にあぶれた主人公が街を彷徨う。

時代は関係ないようだ。
これを喜劇として描いているが、チャップリンはこんな名言を残している。
「人生をロングショットで撮れば喜劇になる。クローズアップで撮れば悲劇になる。」

なるほどね。
遠くから見たら顔の表情なんて分かんないしね。

今年観た映画でいえば「ミナリ」「茜色に焼かれる」もこのジャンルだろうね。
こんなことばかり追っかけていたら映画はツラくなるばかり。
その分、その反対側も大切にしていかないと。
これからもポジもネガも併せ持ち映画を観ていきたいね。

本書で紹介された「バーニング 劇場版」は近いうちにAmazonプライムで観てみようと思うけど。