「逃げきれた夢」というタイトルを見て、かすかな違和感を感じた。
「逃げきれた夢って、どういうこと?」
夢が叶わなかったのか、
持っていた夢がどこかに消えてしまったのか、
一体どういうことなんだろうかと。
映画を観て、なんとなく理解できた。
あくまでもなんとなく。
それは答えが漠然としているのではない。
多かれ少なかれ我々世代が感じる点。
ある種、この主人公に反発しながらも共感する要素。
う~ん、こんな文章ではきっと伝わらないな。
一生懸命やってきたことが独りよがりで終わりそうで、
本当は誰かに認めてもらいたいが、それも言いだせないもどかしい感じ。
僕らのようになりふり構わず頑張ってきた世代が、
結果的に大した実績を上げられず、周りもそれに興味を示さない状態。
多分、同世代であれば、うんうんと頷いてくれるだろう。
ここまで語って、壮大な世界を描く映画じゃないのは分かる。
「最後まで行く」のようなスリリングなシーンも、
「波紋」のような深いため息も、
「怪物」のような人の正しさを問うこともない。
ひとりの中年男性が自分の生き様を淡々に見せるだけ。
全然カッコよくない。
感動的な言葉を発するわけでもない。
アッと驚くような行動をするわけでもない。
本人にとっては大きいが、周りにとっては小さな決断をするくらい。
その反応が寂しい。
しかし、まさにそこに共感する。
小さな目標に向かい、気づかれない努力を積み重ねるが結果的に叶わない。
そんな人生を送る人は多い。
主役光石研は「波紋」でもダメな旦那を上手く演じていたが、それを上回るのが本作。
切ない表情や困った表情や平静を装う表情は見事。
僕も繕っているつもりでも、あんなふうに全て見透かされているのかもね。
ちょっと怖くなった。
特に嫁さんや娘とのシーンは・・・。
自分が熱く語っても冷たい反応しか返ってこない気もする。
父親の威厳なんて空回りの産物か。
我が家は何とか持ち堪えているが、
(そう思っているだけかも)
冷え切った家庭を持つ人は自分と重ね合わせ観ることをおススメする。
大逆転があるかもしれないし。
冷たい視線や言葉を贈る奥さんや娘はいかにもありそうな感じ。
奥さん役は坂井真紀。
僕の予想では今年助演女優賞を取るんじゃないかな。
「ロストケア」で健気に介護する娘役は愛らしかったし、
「銀河鉄道の父」の慎ましく強い母親役にも感動した。
そして本作の冷え切った夫婦関係を演じる嫁さん役もよかった。
実際あんな感じだとツラいけどね・・・。
本作は大ヒットしない。
観れる環境も限られる。
それでも時間があれば、観てもらいたい。
親しい仲間からは「しゃーしい」と言われるかもしれないけどね。