前回は「コンクリート・ユートピア」。
”ユートピア”というタイトルの作品が続く。
時代が求めているのか。
国内外で様々な事件が起きる背景から、今年のキーワードになるかもしれない。
今年はドキュメンタリーを多く観る年。
その一発目が本作。
重すぎたかもしれない。
これがドキュメンタリーの持つ力だが、自分の中の陽が吸い取られていく。
そんな気がしてならない。
しかし、目を背けてはいけない。
正面から知ることも大切。
本作は脱北を試みる家族の行動を描く。
まさに命懸け。
密着しカメラを回し続ける制作陣も命懸け。
北朝鮮の要人に見つかれば、作品自体が泡と消える。
作品だけじゃない。
脱北者も制作陣もスポイルされるだろう。
描かれる世界が正しいとすれば、その行為自体がなかったこととなる。
実に恐ろしい。
本作の製作はアメリカ。
ドキュメンタリーとはいえ自分たちの主張が込められているといえなくもない。
100%素直に受け取るのは危険だが、ほぼ近いのは間違いなさそう。
普段僕らがニュースで見る北朝鮮は表面的な姿にすぎない。
それは誰しも分かっている。
しかし、現実をどこまで把握しているかといえば、ほぼしていない。
それは映し出されないから。
隠されているから。
本作の姿が事実だとすれば、作品でアピールするしかない。
金正恩が否定しようが、何かで脅そうが、訴えるしかない。
フィクションとしか思えない世界は現実だと・・・。
本作では脱北を図りブローカーに頼りながら移動を繰り返す5人家族と
脱北者の母親が本国の息子を救出するために奔走する姿を中心に描く。
5人家族は中心となる夫婦と80代の老婆、小さな子供2人。
夫婦は北朝鮮の実態を知っているが、老婆と子供は半信半疑。
そこには洗脳という言葉が見事に当てはまる。
老婆や子供は北朝鮮は豊かでいい国と信じ、金正恩も神のように敬う。
それを表す象徴的なシーンに僕は恐ろしさを感じた。
こうして国は成り立っているのかと・・・。
他のレビューと同じ疑問を僕も抱いた。
脱北者を支援する牧師の資金源はどこか。
当事者にそんな資金はない。
ブローカーに渡す金額も含め相当なお金はかかる。
支援団体があるにせよ、そこまでの資金を保有しているのか。
この作品の興行収入がそれにあたるのか。
そんなことも考えてしまった。
より多くの方が本作を観れば、手を差し伸べることになるし。
映画館の入場時にこんな冊子が配布された。
北朝鮮の人権の実像が暴かれている。
悲しくなると共に恐ろしくもなる。
それでも国は維持できる。
いかに自分たちが平和なのかを実感しながらも、向き合うことも忘れてはいけない。
貴重な作品といえるだろう。