TVではなく映画館で上映する意味はなんだろう?
と思いながら劇場に足を運んだ。
事前情報を入れずに映画を観たが、映画館での上映の意味が徐々に分かってきた。
僕は坂本龍一氏の最後のコンサートを追ったドキュメンタリーと思い込んでいた。
完全な勘違い。
映画館はイオンシネマ。
普段は80席程度の小さなシアターが多いが、本作は400名弱の席数。
そのシネコンでは一番大きなシアターだった。
それも「ULTIRA(ウルティラ)」という迫力のある鮮明映像と立体音響。
Dolby Atmosのため全方位から音楽が流れてくる。
そんな大きなシアターに10人ほどの観客。
かなり贅沢な空間だった。
本作はドキュメンタリーではなくコンサート。
坂本龍一のソロコンサートを映画館で堪能したのだ。
映画コラムニストとして書くような評論はない。
演出や出演者、ストーリーを語ることもない。
ただ坂本龍一氏のピアノを感じるだけ。
その世界にのめり込んでいくだけ。
映像は静かに流れる。
30分程、経った時に初めて坂本氏が言葉を吐く。
「もう一度やる?」
その他にどれだけ発した言葉があっただろうか。
数える程度。
95%はピアノに向き合い演奏する映像。
あとは沈黙する表情。
それは苦しそうにも楽しそうにも思える。
何か思い悩みながら演奏しているとも受け取れる。
真摯に向かう姿がヒシヒシと伝わる。
「戦場のメリークリスマス」や「ラスト・エンペラー」のような
代表的な曲は分かるが、知らない曲も多い。
曲の細部や難易度は僕には分からない。
それでもその空間に導かれていった。
きっとピアノの前なら何日でも座っていられるのだろう。
余計なものをすべてそぎ落としたコンサート。
モノクロの映像とマッチし、白髪の坂本氏を浮き上がらせる。
それがTVではなく映画館で上映する意味なんだ・・・。
本作が映画ではなくコンサートなら上映する劇場を選ぶ。
偶然にもそんな時間に遭遇できてよかった。
最後のコンサートを体感させてもらった。