吉田恵輔監督は時代に翻弄される人を上手く描く監督。
それも今この時代を鋭く切り取る。
「空白」ではマスコミの偏った報道で勘違いされる人を、
「神は見返りを求める」ではSNSに極度にハマっていく人を描いた。

本作はその両方。
よほどマスコミに恨みを持ち、SNSを懐疑的な存在と認識しているのではないか。
過去、酷い目に合っているのかな(笑)。

しかし、ここはリアル。
中身はともかく実際に被害に遭っている人は多い。
正義感を振りかざす無責任な存在が人を陥れていく。
その餌食になった人が壊れていく。

石原さとみ演じる沙織里は娘が失踪したばかりの時はまっとうだったはず。
感情的だが、当初は青木崇高演じる夫・豊よりも冷静だったかもしれない。
豊は時間と共に冷静さを取り戻したように思えるが、沙織里はエスカレートしていく。

本作はそんなところから始める。
それはあくまでも僕の想像。
マスコミとSNSの反応で徐々に感情むき出しになり、もう誰にも止められない。
傍からみれば異常と受け取れる。

実際、自分や身内が同じ立場になったらどうか。
冷静のままでいられるか。
SNSの書き込みなんて見なきゃいいというのも正論で僕も同じことを言う。
しかし、本当にそれを我慢できるか。
多くの人は弱く、他人の言動が気になり、それにより精神がやられていく。

映画では過激な沙織里が加害者に見える時もあるが、一番弱い被害者ということ。
真摯に向き合う豊の存在がなければ、人が壊れるだけでなく家族も崩壊した。
きっと知らないだけで現実問題として起きているのではないか。
そんな意味でも現代社会を失踪事件に絡め上手く表している。

吉田監督はこれからの作品も期待したい。
今までは暗い作品が多かった。
先に紹介した2作もそうだし、
(「神は見返りを求める」はコメディ要素はあるが)
好きな「BLUE/ブルー」も暗い。
次回は明るく前向きな世界を描いて欲しい。

それにしても本作は石原さとみに尽きるかな。
あんな美しくない彼女も初めて。
街ですれ違っても振り返ることはない。

女優魂も立派と感じた作品だった。