てっきり岡本喜八監督の自伝と思っていた。
確かにその要素は強い。
しかし、岡本喜八の映画監督としての足跡と捉えてはいない。
その人生観を捉えた書籍。
すでに亡くなって20年近い。
映画ファンでなければその存在も知られていない。
圧倒的なファンはいるだろうが、そんなファンも相当な年齢。
今、この時期に発行された意味はなんだろう。
危うい方向に進みつつある日本へのメッセージだろうか。
僕が観た岡本作品は39本中3本しかない。
「日本のいちばん長い日」「ジャズ大名」「大誘拐」の3本。
岡本作品を語るレベルにはない。
言い訳がましくいえば、いつか観ようとずっと思っている。
ということはいつまでも観ないのか・・・。
困ったもんだ。
僕の中では豪快で鬼才というイメージだが、本書を読むとそのイメージは大きく変わる。
もちろん世間が抱く豪快さはある。
しかし、それは敢えて演出した面も多い。
実際は繊細で自身と葛藤しながらの人生。
戦争体験が作品にも色濃く残っている。
脚本や演出にも反映され、戦中派にとってはかけがえのない存在。
僕はそんな視点は1ミリも持っていなかった。
たった3本しか観ていない作品にも戦争で亡くなった仲間への想いが盛り込まれている。
「大誘拐」はメチャ面白かったが、もうほとんど忘れているし・・・。
黒澤明監督や市川崑監督の陰に隠れ、目立つ存在ではなかったが自分の方向性は貫いていた。
そのあたりが一部のファンに圧倒的な支持を受ける理由だろう。
庵野秀明監督が一番好きなのは岡本監督と本書でもインタビューが掲載されている。
そのリスペクトが「シン・ゴジラ」にも反映。
「日本のいちばん長い日」を連想するシーンや岡本監督自身の写真も使われているという。
全然知らなかった。
シン・シリーズでは「シン・ゴジラ」が一番面白かったしね。
今の監督は当然ながら戦争体験はない。
戦中派と呼ばれる監督は存在しない。
今後も戦争映画は作られるだろうが、その視点は現代から見る視点だ。
間もなく戦後80年を迎える。
戦争を知らない僕らは戦争を知らないまま一生を終えるのが理想。
ただ何が起きたかは学ぶ必要はある。
ダイレクトな書籍や映像も大切だが、岡本作品から間接的に学ぶのもいい。
少なくとも「独立愚連隊」「狂人狂時代」「肉弾」は観ておかないと。
いつか観ようなんていってられないな。