できれば観たくなかった。
でも、観ようとする自分を抑えきれなかった。
案の定、落ち込んだ。
救いようのない気分になった。
予告編を観た段階で、相当辛い作品であることは理解できた。
観たいけど、観たくない。
そんな気持ちだったが、同時に観なきゃいけないという妙な使命感に駆られた。
本作は実話をベースに制作。
それもコロナ禍を描いた最近の出来事。
コロナは多くの方に被害をもたらし不幸へ陥れていた。
主役杏もその一人。
しかし、ここで描かれるコロナはひとつのキッカケに過ぎない。
コロナが原因とは言い難い。
その背景にある取り巻く環境がすべて。
幸せは連鎖する。
同時に不幸も連鎖する。
ひとつ歯車が狂い始めると全てが狂う。
それに翻弄されるのはいつも弱い者。
河合優実演じる杏は12歳の時から売春をし、16歳から麻薬に手を出す。
無責任にいえばとんでもないヤツとなるが、そうではない。
完全な被害者。
毒親の下、そうせざるを得ない生活。
ほんと毒親だ。
観ている最中も腹が立って仕方なかった。
演じる河井青葉の上手さもあるが、憤りを通り越す。
しかし、冷静に考えるとこの毒親も被害者なのかもしれない。
一見、大人しい年中、服装の変わらない祖母の存在がそうさせているのかもしれない。
あくまでも想像の範囲内。
この類の作品を観るといかに健やかな家庭が大切かを痛感する。
本人には何の責任もない。
だらしのない周りによって別のカタチにさせられてしまう。
本作も救いの手が伸びる。
刑事役の佐藤二朗であり、ジャーナリストの稲垣吾郎であり。
それが上手くかみ合い、少しずつ成長していく姿で終わればハッピーエンド。
杏の未来にエールを送ることができる。
なぜ、そうしない。
なぜ、そこで映画を終わらせない。
それでいいじゃないかと思ってしまう。
現実は悲しい。
それが実話であるともっと悲しい。
実話をベースにした作品は一方で感動を呼び込むが、一方で僕を奈落の底に落とす。
とても辛い作品だった。
ただ目を背けず、多くの方に観てほしいとも思う。
この感情を大切にし、自分の周りだけでも不幸を出さない行動に繋げたい。
主役杏は「不適切にもほどがある!」で話題となった河合優実。
「サマーフィルムにのって」も「由宇子の天秤」も好演したが、そこまでの印象ではなかった。
本作はヤバい。
恐ろしいほど感情を持っていかれる。
今年の主演女優賞は杉咲花か石原さとみかと言っていたが、彼女がくるかも・・・。
重い作品を避けたいなら、彼女の演技だけを目的に観るのもいい。
ついでに重さを味わえばいい。
実話ではなくフィクションであって欲しいと痛切に願う作品だった。