地味な作品。
知らずに通り過ぎる可能性も高い。
しかし、素通りするには勿体ない。

この家族の物語を押さえておくのも大切。
もしかしたら自分が当事者になるかもしれない。
そんな危機感を抱きながらも別世界の父子関係を味合わせてもらった。

本作は元大学教授の父親とその父親に捨てられた息子の関係を描く。
藤竜也演じる元大学教授陽二は頑固で偏屈。
認知症が原因で警察に捕まり、離れて暮らす森山未來演じる息子卓が呼ばれる。
その代わり果ては姿に驚きながら、関係性が紐解かれていく。

現代と過去を相互に描き、崩壊する親子関係と修復に向かう親子関係が見られる。
時に複雑。
そしてかなりの想像力を求められる。

恋焦がれ再婚した陽二と妻の直美との関係はラブレターの存在で明らかとなり、
その背景が卓との家族関係へと繋がる。
直美、直美と連呼されると体が固まってしまう(笑)。

そこにはとてつもない恋愛をイメージさせるが、そんなシーンは一切ない。
巧みに表現された文章でしかない。
きっとそんな生活も長かったはず。

しかし、認知症がすべてを壊す。
誰を責めることはできない。
陽二も直美も頭では理解している。
ただ感情を抑えることができないし、突発的に襲い掛かる症状は止められない。

いずれオレもこんなふうになってしまうのか・・・。
息子の立場ではなく父親の立場で自分をダブらせてしまった。
悲しくもつらい。

卓はそんな症状を冷静に客観的に眺めている。
それは父親に捨てられた身として愛情も感情も乏しい。
ただそれで終わらないのが親子ということか。

事実が明らかになることで愛情や感情も芽生える。
父親の呼び方も変わる。
ここも想像力。
父親の本当に気持ちを察したのか、単なる同情なのか、捉え方はそれぞれ。

失くした時間は取り戻すことができない。
大いなる不在ということか。
ネタバレしないように書いているので意味不明なブログだが、
親子のあり方を上手く描いた作品だと察してもらいたい。

本作で唸るのは藤竜也の演技。
僕の中では「愛のコリーダ」や「プロハンター」だが、老いゆく演技も素晴らしい。
昨年の「高野豆腐店の春」もよかったけど・・・。

大人になりそれなりに忙しく過ごすと
知らず知らずのうちに大切なものを忘れてしまう。
時間を取り戻すことはできない。
記憶のある時間を大切にすること。
それを実感できた作品だった。