実に愛らしい作品。
映画を観ながらつい微笑んでしまった。
アイスダンスの練習シーン、
カップラーメンをリズムに合わせて食べるシーン、
氷の張った湖でじゃれ合うシーン、
どれも愛らしい。

ひたむきにスケートの練習に励むことが特別ではない。
当たり前に描かれる日常だが、
光が差すスケートリンクが幻想的に見えてしまう。

映像やフレームからして16ミリで撮影したのか。
手触り感が残る映像が観る者を優しくさせる。
小さな幸せを感じながら観ることができた。

時代設定は今の時代かと思ったがそうではない。
車にカセットテープを入れる。
スマホは登場しない。
せいぜいガラケーが使われるくらい。
あるシーンのカレンダーから推測すると1990年代後半。

そんな時代設定。
今ほどLGBTQの理解はない。
それにより苦しめられるが、子供たちは純粋でひたむき。
そんなシーンを連続的に観ているうちに微笑ましくなってしまった。

そうそう、どんな作品かといえば北海道を思わせる田舎町で、
アイスダンスに取り組む男女とコーチの出会いから別れまで。
雪が積もる半年間の物語。
冬は人の気持ちも清らかにさせるのかもしれない。
スケートに取り組む3人がキラキラと輝いている。

コーチ役の池松壮亮は不思議な役者。
いつも同じ雰囲気だが、その中に役者魂を感じさせる。
まるで本物のスケート選手のよう。
自然体で上手い。
「白鍵と黒鍵の間に」ではジャズピアニストを見事に演じたが、役作りは徹底。
相当量の練習をしたのだろう。

フィギュアスケート選手を目指すさくらを演じる中西希亜良も本物のよう。
そのままオリンピックを目指してもよさそう。
きつ音の少年タクヤも日に日に成長していった。
演じる越山敬達の上手さか。
静かに流れる時間が心地よかった。

奥山大史監督の存在も初めて知った。
調べてみるとまだ28歳と若い。
先日の「ナミビアの砂漠」の山中監督も27歳。
才能ある若手監督が存在感が目立つようになってきた。
機会を与えるプロデューサーの役割も大きい。

大きな話題になるわけではない。
大ヒットするわけではない。
上映する映画館も限定的。
そんな中にステキな作品が紛れている。

そういう日本映画も大切にしていきたい。