白石和彌監督は東映のヤクザ映画や時代劇を相当リスペクトしていると思う。
東映のオープニングは70年代の映像じゃないかな。
100%東映らしい作品にあえて仕上げたと感じた。

かつて「十三人の刺客 」という作品があり2010年にもリメイク
浪人たちを集め江戸時代後期の幕府に立ち向かう痛快な時代劇だった。
本作は明治維新の前、戊辰戦争を描く。
一昨年観た「峠 最後のサムライ」と同じ新潟が舞台。

本作が史実かどうかは知らない。
峠のような武士道的な美学はない。
白石監督らしい人間の本性むき出しのグロさが前面に出る。
それが却って好感が持て、賊軍と呼ばれる罪人集団を応援してしまう。

罪人が集められ戦いの始まりから終わりまでぶっ通しの155分。
長さを感じることはない。
舞台となる砦でのほぼ3日間を描くが、その間に多くの人間模様が露わとなる。
その駆け引きやいやらしさ、見せかけの強さや本来のエゴがあぶり出され、感情を動かす。

1対1であり、藩対藩であり、新政府軍対幕府軍。
自分の正義であり、相手にとっては別の正義。
妻を寝取られ新発田藩士を殺害し罪人となった山田孝之演じる政から正義を感じないが、それも正義。
多分、書いていることは伝わらないので、それぞれの正義を映画で確認してもらいたい。

政に殺害される藩士は音尾琢真。
彼は白石作品には欠かせない役者だが、出番は少ない。
あっという間に殺されてしまう。
友情出演でいいんじゃないかな(笑)。
本編に影響を与えないネタバレなので許されるだろう。

唯一、本物の正義があるとすれば、仲野太賀演じる鷲尾兵士郎。
彼の生きざまが本物の武士を感じさせる。
このあたりも往年の時代劇特有の在り方と思うが、潔く気持ちがいい。

仲野大賀は味のある役者とは思っていたが、カッコよさは感じていなかった。
失礼しました・・・。
すこぶるカッコいい。
本作は彼が主役といっても問題はない。
殺陣も決まっていた。
他の賊軍も役割が明確で分かりやすかった。
特に初めて知る役者陣も個性が輝いていた。

そして新発田藩家老の阿部サダヲ。
一番似合うのはコミカルな役柄だが、本作では本音を見せないちょっと不気味な家老。
思い出したのは「死刑にいたる病」
正義を装う曖昧な表情が一致する。
白石監督が好む理由わかった・・・。
そんなことも感じてしまった。

想像以上に斬り合うシーンはグロテスクなので怖気つくかもしれない。
万人受けはしないが「仁義なき戦い」シリーズが好きな人はドはまりする。
果たしてそんな若者はいるか。

こんなハードな作品を白石監督はこれからも撮り続けるのだろう。
個人的にはこれからも期待したい。