「正体」とは横浜流星演じる脱走犯の鏑木慶一が
逃亡先で変装する姿を指しているだけではない。
もちろん鏑木慶一の本当の姿ということもあるが、
刑事役の山田孝之の正体であり、
闇に隠れる警察の正体でもある。
そんなことを感じた。

肯定的に捉えられる「正体」もあれば、否定的に捉えられる「正体」もある。
どんな場合でもいずれ本当の「正体」はバレるものだ。
と作品とは関係ないところから・・・。

藤井道人監督は好きな監督の一人。
今年だけでも「青春18×2 君へと続く道」「パレード」を鑑賞。
タイプは異なるが、いずれも素晴らしい作品。
今どき幅の広い作品を撮ることのできる珍しい監督じゃないか。

共通するのは人の掘り下げ方。
揺れ動く感情を上手く表現している。
憎しみも悲しみも喜びも切なさもその表情や立ち振舞いでグッとこちらに押し寄せる。
表面的な作品の面白さだけではいい映画にはならない。
人の感情を伝えてこそ心に残る映画になる。

予告編を観る限り鏑木慶一が悪人か善人かは分からない。
正体を隠し逃亡をし続ける中でその人物像が見えてくる。
いつのまにか観る者は感情移入していく。

脱走犯の味方になるのか、警察の味方になるのか一目瞭然。
誰しもが応援するだろう。
僕らはその「正体」を徐々に理解し正しさと向き合うことになる。

ストーリーはある程度想像できる。
そして想像は裏切ることはない。
もしかしたらラストで裏切られるかと心配したが、想像通り終わってくれた。

それがいい。
予測のつかない韓国映画もいいが、自分が予想した展開で映画が終わるのもいい。
ウルッときてしまった。

レビューを読むと映画と原作はかなり異なる。
それも一番肝心なシーンが違う。
原作通りに描かれていたら違う感じ方をしたと思うが、
僕は藤井監督が描いた世界で正解。
この結末でよかった。

ここまで書いたが、ネタバレはしていないよね?
2024年公開された日本映画ではぜひ観て欲しい一本。

藤井作品の常連となった主役横浜流星ははまり役だが、刑事役の山田孝之もよかった。
珍しくまともな人物(笑)。

多分、ツッコミどころはあると思うが、それを気にさせない展開。
楽しませてもらいました。