意外といっては失礼だが、映画監督がこんな本を書くとは思わなかった。
それも深田晃司監督である。
僕が注目する若手監督の一人で観ている作品も多い。
近年では「淵に立つ」「よこがお」「LOVE LIFE」だが、
どれも個性的でインパクトの強い作品。
人の闇を抉るような恐ろしさも感じた。
作風から職人気質の自分にも他人にも厳しい監督と想像していた。
現場でもハードワークを求めるのでは・・・と思い込んでいた。
人物像を勝手に判断してはいけません(汗)。
本書は日本映画界の問題点をあぶり出し、それを改善するための対策を著している。
映画監督というよりは労働法に詳しい大学教授が書くような内容。
その点にまずは驚き、そして感動を覚えた。
タイトル通り現場からの問題提起を行い、映画界の「働き方改革」を求めるもの。
僕らは映画業界は薄給であろうが、長時間勤務であろうが、
無休であろうが好きで働くとイメージしている。
しかし、それでは長くは続かないし、いい仕事はできない。
それを一番理解しているのは深田監督だろう。
古い世代はその認識は足りないかもしれない。
それは一般企業でも同じで、未来を考えれば「改革」は当然のこと。
そのために待遇を改善する必要はあるが、
「はい、分かりました!」というわけにもいかない。
企業の場合は自社の売上や方向性を把握した上で全体感で進めることが可能。
個人事業主や小さなプロダクションの集まりである業界では一筋縄ではいかない。
ましてや売上予測が不能な映画産業。
その点では業界の外に課題もある。
大袈裟にいえば日本という国が芸術をどこまで大切にするか。
インフラをどう整えるのか。
そんな点が求められる。
深田監督は韓国やフランスを例にとり理想とする姿を描く。
韓国映画やフランス映画に力があるのは単に作り手の能力だけではない。
それをサポートする体制が充実しているのだ。
そんな背景は知らなかった。
いい作品を生むにはビジョンも対策も必要。
両国とも政治面では何かとざわつくが、映画を護るために立派な制度があるとは・・・。
だからこそ日本映画にはない魅力的な作品の制作も可能。
深田監督は日本映画の未来やフェイクに対するリテラシーにも言及。
第一線で活躍する映画監督が著者であることに大きな意味を感じた。