作品のオープニングとエンディングにはこんな「おねがい」が表示される。
「この映画に登場する子どもたちや職員は、これからもそれぞれの人生を歩んでいきます。
SNS等を通じて、出演者個人に対するプライバシーン侵害やネガティブな意見、
各家庭の詮索や勝手な推測、誹謗中傷を発言することはご遠慮ください。
また、近所にお住まいの方は、施設名や地名の言及をお控えください。
どうかご協力をお願いいたします。」

僕が想像するにお金を払って本作を観る方はこの「おねがい」を破るようなことはしない。
一定のモラルを持った方がわざわざ映画館に足を運ぶと思う。
しかし、世間は分からない。
細心の注意を払うべきだとすれば、このテロップは必要だろう。

本作はとある児童養護施設の日常を描くドキュメンタリー。
どんな場所かは容易に想像できる。
7歳から施設を卒業した大学生まで8名の普段の生活を追う。
顔も名前も年齢も明かされる。

特別なことはない。
あくまでも日常。
普通の生活といっていい。

その普通の生活には基準はあるのか。
僕の普通と彼ら彼女らの普通は違う。
客観的に見た場合、どっちが本当の普通かといえばきっと答えは出る。
ただその答えは意味がない。
そんな客観性はどうでもいい。

大切なのは一人一人がどう自分に向き合うか。
どう生きていくか。
世間や社会にどう対処するか。

感じ方はそれぞれですべてが正解。
一人一人の些細な言葉から価値観や葛藤が垣間見える。
繕うことはなく本音。
肯定的にも否定的にも受け取れる。
僕らが勝手にイメージする面がないわけではないが、みんな懸命に生きている。
それで十分だと思う。

大きな事件が起きるわけでもない。
お涙頂戴でもない。
グッとくるシーンはあるけど・・・。

普通に始まり普通に終わる。
人の生活はそんなもの。
その中にドラマがある。
それを知れただけでも本作を観た価値はあるといえよう。

本作はネット配信もDVD化もしないという。
竹林亮監督もそうだが、斎藤工さんもやってくれますね。