予告編はどれだけ観たことか。
ナンパな恋愛映画と思っていたが、気づいた時にはアカデミー賞の各賞にノミネートされていた。
結果的に作品賞、監督賞、主演女優賞、脚本賞、編集賞を受賞。
ほぼ独占といっていい。
昨年の「オッペンハイマー」が硬派な作品だけに傾向の違いに驚いた。

ナンパな恋愛映画は予告編の顔。
アノーラがストリップダンサーで「契約彼女」なのでR18+と思ったが、そんな優しいものではない。
オープニングからかなりきわどい。
ロシア人のバカ息子との激しいシーンも想像以上。
そりゃあ、18歳未満は観ちゃダメだよね。
隣の観客が若い女性だったので、やや緊張してしまった。
カップルも多かったが、どんな感想を共有するのだろうか。

本作の意を汲むのは難しい。
アノーラは純粋で一途な想いだけだったのかもしれない。
バカ息子も葛藤や苦悩があったのかもしれない。
しかし、ドラッグと酒とセックスに明け暮れ贅沢三昧の姿を見ると60歳前のオッサンはたじろく。
本当に一途?
その苦悩は本物?
と思ってしまったり。

ただ、なんだろう。
有無を言わせぬスピード感がたじろくオッサンを凌駕する。
若さが世間の常識をぶっ飛ばす。

ただ、勢いは長くは続かない。
常識面したぶっ飛んだ司祭が現れたあたりから物語の様相も変わる。
そして登場するバカ息子の両親。

僕がバカ息子といっちゃいけない。
あくまでも御曹司。
いっていいのは実の両親だけ。
両親は誰に対してもストレートな物言い。
自分たちが一番偉い。
この親にしてこの息子か・・・。
そんなことも思ったり。

一体、誰がまともなのか。
一周回るとアノーラが一番まともにみえる。
きっと人なんてそんなもの。
職業や人種や収入で人の価値を図る。
グルーッと回ってようやく人の価値に気づくのだ。

すべてを客観的に見ていたイゴールという寡黙な男がその役目。
だからチープな恋愛映画で終わらず、アカデミー賞を受賞することにもなったのだろう。
それは違うか(笑)。

これからアノーラはどこへ向かっていくのか。
なぜか彼女には幸せになってほしいと願う。

そしてバカ息子、いや御曹司はこれからまともに働くのか。
どうでもいいことも観終わった後に感じたのだった。