本作は日本映画とは言い切れない。
正確にはフランス・日本・ベルギー・スペイン合作。
先日の「エミリア・ペレス」同様、フランス映画の幅はどこまで広がるのか。
レアな題材を放置する日本映画への皮肉だったりして。
僕は写真家・深瀬昌久の存在を知らなかった。
僕が無知というよりはそんな日本人は多い。
映画化にはそれがネックとなり海外作品となる。
深瀬氏の生き様は映画化の対象に十分なり得る。
フィクションの要素はあるとはいえほぼ実話。
天才と狂人が紙一重なのは過激な人物像からヒシヒシと伝わる。
天才になるために自ら破滅の道を選んだとも思えるし、
天才がゆえに一般社会での生きづらさを露わにしているとも思える。
弱い人間なのに強がってみせるのも天才の特徴か。
本作は浅野忠信演じる深瀬昌久と被写体である妻・洋子を中心に一つの時代を描く。
洋子を演じるのは瀧内公美。
「敵」のインパクトが強かったのはつい先日のこと。
まだ4月というのに彼女が出演した今年の作品は
「敵」「ゆきてかへらぬ」「奇麗な、悪」(未鑑賞)と本作ですでに4本。
まさに最近稀な映画を中心とした女優。
「映画女優」と呼ぶべきか。
本作もその魅力を思う存分発揮していた。
破天荒な一面と真っすぐな一面を併せ持つ。
実際の洋子もそんな存在だったと想像できる。
そんな役を見事に演じた。
当面、日本映画は瀧内公美を離さないだろう。
大胆な演技もできるし・・・。
個人的には「敵」の役柄の方が泥沼に陥りそうで好きだけど(汗)。
話を戻そう。
一つの時代というのは1960年代から1990年代の写真家・深瀬昌久の活動。
ほぼカメラと煙草と酒の生活。
酔うために酒を飲むのか、酒を飲むから酔うのか。
いくら酒好きの僕でも彼の飲み方には共感できない。
酒に溺れるというより逃げる手段の酒だったようにも思える。
天才の弱さなのか。
天才の弱さと書いたところで尾崎豊を思い出した。
致命的な事故も似ていると思えるし。
本作は実話を忠実に描くのではない。
深瀬氏のもう一人の自分ともいえるのが時々現れるレイブン。
レイブンを訳すとワタリガラス。
あれはワタリガラスだったのか・・・。
映画では重要な役割を示すが、予告編やフォトギャラリーには出てこない。
もしかして僕が見たのは幻想?
ぜひ、確かめてもらいたい。