森達也といえば、僕の中では映画「福田村事件」であり、ドキュメンタリー作品を手掛ける監督。
「放送禁止歌」の著者でもある。
日本の暗部を抉り出す作品が多い。

そんな森監督が映画の評論をしているとは思わなかった。
帯にあるようにある種痛快、そして大胆。
その立場だから言えるのだと思うが、紹介する作品に忖度はない。

映画コラムニストを語る僕は基本的に作品を否定することはない。
駄作と思っても正面切ってそれをいうことはない。
少しでも映画の観客数が増えることを望んでいるし、
いくら駄作でも自分で撮る能力は持ち合わせていないから。

だからだろうか、本書はある意味、憧憬を抱きながら読んでいた。
その能力に対して・・・。
能力の違いは明らかだが、近しい面も多い。
大学時代に映画研究会で8ミリ映画を撮っていたこと。
頻繁に映画館に通っていたこと。
そしてほとんど大学に行っていないこと。
10歳年上なので時代は違うが同じような学生生活を送っていた。
それだけでも身近に感じたり・・・。

本書では「ニューズウィーク日本版」に掲載された90本の映画の批評が並んでいる。
2020年2月からの連載で比較的最近の邦画が中心。
但し紹介される映画は公開時の作品ばかりではなく昔の作品も多く一貫性はない。
最近の作品もメジャー作品よりはマイナー作品が並ぶ。

近年は僕もある程度網羅しているが、初めて耳にする作品も多い。
まだまだ知らない世界があるということ。
一部、アマプラやNetflixでも公開されているので、近いうちに観てみよう。
50年代や60年代の作品も含めて。

親しい監督仲間の作品も紹介しているが容赦ない。
どこがダメかを明確に指摘するので却って清々しい。
本業の方が作品を語ると視点も大きく変わる。
僕らただ観ている人には持ち合わせない感性なので新鮮だったり感心したり。
いい刺激を受けた。

少なからず同じような感想を持った作品もあった。
映画「悪人」に対しての批評は僕とほぼ同じ。
(なんだかエラそうだけど)
少しばかり嬉しかった。

このマニア向け映画批評の連載がいつまで続くかは知らないが、
これからも楽しみにしたい。
それよりも次回作を期待したいけど。