僕は世に言うサッカー通ではない。
ずっと熱心な観戦者でもなかったし、どちらかと言うとサッカーよりも野球の方が好きだ。
しかし、今回のロシアのワールドカップはリアルタイムで興奮したし、
コロンビア戦も、セネガル戦も、ポーランド戦も、そしてベルギー戦も、
久しぶりに手に汗握るサッカー観戦に興奮し、熱狂し、落胆した。
それはとても楽しい幸せな時間だった。
こんなに興奮してサッカーを観るのはベンゲル監督時代のグランパス以来ではないだろうか?
そう自分に問いかけてみたが(その間になんども日本代表のW戦があったにも関わらずにだ!)
それは、たぶんアーセルのベンゲル監督がアーセルを退任のニュースを聞いたせいでもあるかもしれない。
https://www.football-zone.net/archives/103720
アーセン・ベンゲルが名古屋グランパスの監督をしていたのは1995と1996のたった2シーズン。
その間、グランパスはリーグ2位と天皇杯優勝を成し遂げた。
そのあとベンゲルはプレミアリーグのアーセルFCの監督として22年間、03-04の無敗優勝を含むFAカップ7度の優勝など素晴らしい業績を残し22年目のシーズンである今年の5月、アーセルを去った。
1993年Jリーグ開幕節の名古屋グランパスエイト対鹿島アントラーズの試合では、リネカーが不発で、ジーコにハットトリックを決められて以来、名古屋グランパスは低迷し続けた。
正直Jリーグのお荷物的な存在に感じたし、あまり面白いサッカーでは無かったような印象がある。
しかしベンゲル監督が1995年に就任して、名古屋のサッカーが素人目にもガラッと代わり、グランパスのサッカーが攻撃的になり面白くなった。
そんなにサッカー好きでは無かった僕も、小倉、岡山、森山、平野、小川、飯島、デュリックス…たくさんの選手名を覚え、毎週サッカーをTVで観戦し、時には瑞穂競技場まで足を運んだ。
ベンゲルのおかげで、僕はそこで初めてサッカーの面白さに魅了され(でも続かなかったけど)、グランパスファンにとっては幸せな2年間だったと思う。
そして僕が個人的にもベンゲルが忘れられないのも、グランパスを辞める報道がされた数日後、僕は偶然に栄の松坂屋でベンゲルに出会い、握手をしてもらったことがあるからだ。
とっても背が高く、痩せていて、インテリの落ち着いた佇まいで、多数のファンに囲まれているどさくさに便乗する僕にも、大きな手で優しく握り返してくれたことを覚えている。(ちょっと迷惑そうだったけど)
ベンゲルが名古屋を去った後、ベンゲルが『勝利のエスプリ』(1997年 NHK)という本を出版し、僕は直ぐに本屋で買って読んだが、当時はグランパス時代のベンゲルの気持ち・思いなどを明らかにする本、日本サッカーへの提言、日本文化論としても印象深く面白く読んだのをおぼえている。
今回久しぶりに手に取ったところ、監督とは何か?日本人へのコーチングに大事なことは?という点が非常にわかりやすく、印象的だった。
そして、最近のWeb sportivaのこの記事
https://sportiva.shueisha.co.jp/clm/football/jleague_other/2018/02/05/___split_11/index.php
これがとっても素晴らしいです。「勝利のエスプリ」の内容を具体的にわかりやすく記事になっています。
ベンゲルは監督の仕事は、選手各人に最大限の自己表現をさせることにある、という。
その個人それぞれの資質を開発する道を示すことであり、この状況ではこのパスを出せ!という言い方を監督はしない。
練習は、激しいフィジカルな練習と、ゾーンディフェンスの徹底などの守備の約束事、そして攻撃においてはシチュエーションを決め、それに対応しながら自己創造性を伸ばしていくような練習になるという。
ベンゲルに言わせれば、ボールを支配するのはボールを持っている選手であるべきであり、ボールを持っている選手はその時点で一番良いと思われる方法を選ぶべきなのだ。
しかし日本人の選手はどうしてもどう攻めたら点が取れるのか?監督に具体的に戦術を示してほしいと指示を願う。
いわばタスクを欲しがるのだ。それが自分の創造性を殺すことになっても、全体の役割の一部になろうとする。
この日本人の要望をベンゲルは最初わからなかったという。日本人の自己の創造性を殺さずに、限定された役割を持ちたいという意思を尊重する為に様々な言葉を語る。例えば、攻撃の策を聞かれてベンゲルは
Pass should be future, not past, not present. (パスは未来へ出すものだ。過去でも、現在でもなく)
「その言葉を聞いて、頭の中がすごくクリアになりましたね」そう語るのは、中西哲生である。ピッチ内において「future=未来」は前、「past=過去」は後ろ、「present=現在」は横を意味する。つまり、パスコースの最初の選択肢は前であるべきで、前に出せなければ斜め前、そこにも出せなければ横、バックパスは最後の選択肢、というわけだ。前方にパスを出すためには、前に人がいなければならない。だが、チームが採用するシステムは4-4-2で、当たり前のことだが、2トップの前には人がいない。それでも前にパスを出すためには、どうすればいいか――。答えは簡単だった。2トップのストイコビッチや小倉にボールを預けて、2列目や3列目の選手たちが追い越していき、彼らがパスを受ければいい。こうして、後方から選手が次々と飛び出していくダイナミックでコレクティブな攻撃のイメージが共有された。(Web sportivaより引用)
仕事の要件定義は大変だ。
仕事を因数分解し、タスクに分解し役割を振って、実行し確認する。それを振り返りやっとPDCAが回り始める。
そして要件定義は苦しいけど面白い。仕事の自己表現はそこにあり、仕事の面白さの多くはそこにあるはずだ。
タスクは自分の為にあるべきだし、自分で振るべきなのだと、改めて思う。
なのに多くの人たちは他人に自分のタスクを振って欲しがっている。それをこなすことを仕事だと思っている。
しかしそれは、全てではないのだが、組織における居場所確保や、短期的なやり過ごすような考え方だと思う。
個人の創造性やモチベーション、仕事のイノベーションにはならないのではないだろうか。
やっぱりベンゲルは知的で、情熱的で、サッカーに純粋で、とってもいいです。尊敬します。
どこかで日本代表の監督やってもらえませんかね、やっぱり期待してしまいます。
(あ、もちろんグランパスに帰ってきてくれたらもっと嬉しいですが)
以上、高井でした。