『人新世の「資本論」』斎藤幸平 集英社新書2020年9月

久しぶりにインパクトがある本だった。
その革新性も、説得力も、論理性も、作者の熱量も、読みやすさも、全てが楽しく一気に読み終えた。
ここで提案された作者の考えは、きっと議論を巻き起こす。
賛否両論必死の内容だ。
賢い作者は全ての批判を意識しながら、どんな返り血を浴びても読者を作者の議論の土俵に引っ張り込もうとしている。
おそらくその狙いは、この本において成功していると思う。

すでに人類の経済活動に影響を受けていない場所(フロンティア)は地球にはどこにも無い。
聞き慣れない「人新生(ひとしんせい)」とは、人類の活動が地表を覆い尽くした時代のことだ。
現在問題になってる地球温暖化、つまり気候変動は確実に地球を壊してしまうだろう。
すでに異常気象などでその兆候は出ている。
(もちろん、温暖化などたいした問題ではないというトランプさんもいるけど)
そして作者によれば、この危機の1番の要因は資本主義にあると。
他者の犠牲の上に成り立つ採取主義と外部化(環境や人など)に依拠した
大量生産・大量消費の生活(帝国生活様式)を根本的に見直さないと、取り返しのつかない未来が来ると。

気候変動と資本主義の問題点を豊富な知識とデータの引用で示していく手際は素晴らしい。
そこだけでもこの本は読む価値があると思う。
少なくとも自分には知らないことばかりだった。
そしてSDGsも政府や企業のアリバイ作りのようなものであり、
グリーン・ニューディール(技術革新による環境保護と経済成長の両立)でも環境破壊と温暖化は止められない。
電気自動車に必要なリチウムもコバルトも、途上国での貴重な水の浪費や環境汚染、過酷な労働を強いている。
後進国での安くて過酷な労働や資源の搾取が、先進国での安くて良い商品につながっている。
世界の富裕層26名と世界人口の約半分の総資産が同等という不思議。
資本主義こそが、利潤拡大を目指して地球全体を市場とし、
全てを商品化に巻き込み、自然の略奪、人間の搾取、巨大な不平等と欠乏を作ってきた。
これが問題の根本であると。

ここまでの問題提起は多くの人がある程度納得できるだろう。
難しいのはこの克服を目指す方向性だ。
作者は晩期のマルクスの可能性の中心を「脱成長コミュニズム」という言葉で表している。

無限の成長神話は資本主義の幻想だ。
これ以上の害悪を生む成長や効率化を目指すことをやめて、
地球の特定の限界の中で生きていくという考え方が脱成長だ。
そして生活の基盤である生産は、資本に任せるのではなく、
コミュニズムが管理する富(コモン)がするべきであると。

自分の能力と準備では、とても作者の意見をまとめることはできないので興味があればぜひ一読をお勧めします。
自分的には、資本の目的は価値増殖だから、商品の二つの価値のひとつである交換価値を重視し、
結果的に希少性を増やし私服を肥やそうとする。
十分生産していないので貧しいのではなく、資本主義が希少性を本質とするから貧しいのだ。
だからこれからは商品の使用価値経済へ転換しなくてはならない、というところが一番グッときました。
以上、高井でした。