こんにちは、水谷です。
スポーツ選手が現役あるいは引退後に本を出版されることはよくある。
監督やその参謀的な役割の方が出された本もある。それも好きでたまに読むのだが、
時には視点を変えてみることにする。この本は選手や監督が出す本とは一線を画す。
著書の橘木俊詔氏は経済学者。
野球については素人である著者が、プロ野球という産業と選手について経済学、
特に労働経済学の知識を生かしてプロ野球について述べられている。
労働経済学をきちんと勉強したことのない私にとっては、
聞きなれない用語もたくさんあるのだが、一応プロ野球好きの端くれ(自称)であるので、
興味深く読み進めることができる1冊である。
プロ野球で起こっていること(採用、年俸、成績評価、チームの移籍、球団経営など)を、
企業と労働者の間で起こっていることとして、経済界で起こっていることとの関連で解釈できる
と述べている。自分自身と会社に置き換えて、人事、年俸について考えてみるとより身近に感じ
ることだろう。
一つの例が、選手は自営業者か。という問いがある。
企業であれば雇用主と労働組合の代表と平均賃金などについて交渉するが、
選手は原則1年契約(一部複数年)であるため、正規労働者のように無期限の雇用契約を
了解しているものではない。厚生年金に加入していない点などを挙げて、自営業者であると結論
付けている。
また、労働法制で守られているか。という問いに対して、
一般のサラリーマンであれば、労働基準法などの労働法で保護されており、
労働者として健全な働き方が保護されているが、プロ野球選手はどうか?
解雇や労働時間、最賃法といった用語が出てきており、さながら労働法の本のよう思えてくる。
労働法の本を読むことは仕事上よくあるので、嫌いではないのだが・・・
経済学の視点から述べられている点が面白い。
球団経営にも一般の企業とは異なる性質がある。新規参入が困難なギルド的体質があると指摘
し、2004年のストライキや球団の再編成についての経緯を経済学の立場から説明されており、
当時のテレビや新聞の記事をよく読んでいたことを思い出した。
ギルド的と言われてみないと気づかないが、当時新規参入には60億円の加盟金が必要な点など
からしても頷ける点は多い。現在は制度の変更があり、弱まったと著者は評価する。
プロ野球選手とエリート会社員との生涯所得の比較、
大リーグとの比較で日本のプロ野球を評価し、
今後の日本プロ野球界への提言をしている。
プロ野球を一つの産業と選手を経済学の視点からみると
いろいろ面白いこともあることは伝わる1冊である。
しかし、野球は試合を楽しみ、成績を楽しむ。本書はオフシーズンに読み返すのがよいと感じた。